僕の所有者宣言 ■しおりを挿む
◆ ◆ ◆
僕がアルの計算を読んだつもりで“計算外”を仕掛ける決意をしてから何日か経過した。
十月も半ばを少し過ぎてすっかり秋めいてきた気候、エアコンなんて機械に頼らず窓から吹き込む自然の風が心地いい。
昼休みに入って騒つく教室の中、授業で鈍った身体を伸ばした僕の左目がちくりと痛んだ。
少し強めの風で、僕の左目にゴミが入ったようだ。
「どうしたのですか?」
いつも通り昼食を誘いに来たアルは、少し心配そうに話し掛けてきた。
「うーん、ゴミが入ったみたいなんだ」
涙がぼろぼろと零れるが、なかなか痛みが取れてくれない。
左目だけで泣くのはなんだか異様だ。
「擦ってはいけません。私に見せてください」
アルの指先が目許に触れる。
反射的に右目も閉じると、目蓋全体の力が抜けて楽になる。
「少し染みますよ」
左の下目蓋を捲られて、ぽとりと冷たい雫が入ってきた。
それがじわりと広がって、ピリピリとした痛みと共に爽快感をもたらす。
目を閉じたまま眼球を動かしてみるとゴミは流れたようで、チクチクとした痛みが徐々に引いていった。
「痛くなくなってきたよ、ありがとう」
未だに目を閉じたままで礼だけを先に言うと、アルの指先が零れた涙の跡をなぞるように頬に触れた。
あ、来るかも。
そんな予感がしながらも薄く目を開けると、思ったよりも近くまで迫った端整な顔。
いつもならここでそれを突っぱねるんだけど、今回は気付かないフリで待ってみる。
「…………………」
やっぱり。唇は触れて来ない。
昼休み独特の周りの騒めきが少し治まっている。
視線だけはめちゃくちゃ感じるけど。
「…アル? しないの? …キス」
微かに感じる吐息に、アルの顔が限りなく近いことを察した僕は、意を決して挑発するようなことを言った。
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