The Frog in the Well | ナノ


うしてとうとう、その日がやってきた。

The frog in the well knows nothing of the great ocean.

アニメーガスの件は(もちろんバカを承知で打ち明けたのだが)、案の定リーマス・ルーピンをさらなるナーバスの世界に引きずり込んでしまった。当然といえば当然だ。

「仮にもアニメーガスが完成したら……"屋敷"へ来るつもり?」
「リーマス。小さいこと云うなよ、好きなところへ行こうじゃない。例の地図の規模も広がって一石二鳥――いや、夜中に脱走って時点でじゅうぶんブッ飛んでるか。明日なき暴走だね!」

妙にはしゃぐジェームズを、シリウス・ブラックが面白そうに眺めている。ピーター・ペティグリューの表情だけはぎこちなく強ばっていたが、それが普通の反応なのだ。リーマスは彼の横顔に向かってうっすら微笑んだ。

「おい、ちょっとは気が軽くなったかよ?」
「余計に重くなった。ありがとう」

そろそろ行かなきゃ、と立ち上がったリーマスの体は、いつもよりずっとひょろひょろとして、まるで紙人形のように力がない。それでも顔色は窓から射す夕日のせいか、少し赤味がさしていた。

「この部屋にいると、自分がばけものだって忘れそうだよ……」
「安心して。シリウスなんかケダモノだよ」

思いきりシリウスに頭を叩かれ、ジェームズがへらへらと笑う。ピーターは部屋を横切るリーマスに向かって、そっと手を振った。ほかの二人もそれに倣い、ごく軽い調子でひょいっと手をあげると、「そんじゃ」と彼を見送った。

リーマスは苦笑ともつかない穏やかな笑みを貼りつけたまま、静かにドアを開けた。なんだか背中がむずむずしてたまらない。マダム・ポンフリーは、いつもより遅れて現れる彼を叱るだろうか。こんなことは入学以来、初めてのことだった。

 

1/3

×
- ナノ -