The Frog in the Well | ナノ


て問題です、明日は何の日でしょう。

「……何のって、満月の日だよ。知ってるだろ」
「ブブー! 答えは『マダム・シニストラによる残虐・退屈天文学の日』でした。リーマス残念賞!」


The frog in the well knows nothing of the great ocean.


残念賞の棒つきキャンディを掌で弄びながら、リーマス・ルーピンはベッドの上に座っている。表情は固く、哀しげで落ち着きがない。月が満ちるにつれて彼はどんどん神経質になり、そんな自分を紛らわすためなのかめずらしくよく喋った。

「天文学って休んでばっかりだな、わりと好きなのに。どのみちあんなに月が明るくちゃ、まともな観測はできないだろうけど……」
「そもそも僕はあの授業、起きていられたためしがないね」

むしろきみは幸運さ、とジェームズ・ポッターが茶化したが、笑い返すリーマスにはいかにも空元気だ。もちろん明晩のことだけではなく、ナマエ・ミョウジと膠着状態が続いている件も、更なる憂いをもたらしている原因なのは間違いない。

「リーマス、ひとつ聞くけどさあ」

変身術の応用本をぺらぺらとめくりながら、ジェームズが口を開いた。

「いつかはこのことナマエに知って欲しいの? それともずっと隠しておきたい?」

リーマスは少し目を見開いたあと、へらりと笑った。

「そりゃ嘘を吐かなくてすむなら、その方がいいよ。でもきっと知ったら軽蔑される。僕は本来なら学校にも通えないし、きみたちにだって知られるべきじゃなかった。それに……」
「それに?」
「それに彼女、きっと薄々は何かに気づいてる。朝に校庭を歩いてるところを見られて、それが発端で喧嘩になったんだ」
「知ってる。だってけしかけたのは僕だもん」
「――何だって?」

ジェームズはそこで誤摩化すように首をふり、本をパタンと閉じた。

「まあ、きみの”ふわふわちゃん”の恐ろしさはとにかくだね……。リーマスは、ナマエに知ってほしい。そしてナマエも知りたがってる。需要と供給は成り立ってるよ」

リーマスが掌で額を覆い、深く息を吐いた。状況を考えると無理もないが、その姿がいつもよりいっそう力なく見えてしまい、今夜は口に押し込んででも夕食をたくさん食べさせねば、とジェームズは勝手に心に誓った。

「要は、きみが伝えやすいような、かつ相手がすんなり納得できるチャンスが来たなら、素直に打ち明けられると。そういうことだよね」
「……未来に明るい見通しでもあるっていうの?」
「Evidement.」

もちろんある、とジェームズは指先でずり落ちた眼鏡を押し上げた。


 

1/3

×
- ナノ -