The Frog in the Well | ナノ


を瞑って生きられたらいいのに。
見えないものがあるのは不便だが、見たくないものを見ずにすむ。ナマエ・ミョウジは授業中にどこからか回ってきた羊皮紙の切れ端を、思わずぐしゃりと握った。


The frog in the well knows nothing of the great ocean.


「……クソくらえ思春期……」

ぼそりと呟かれた物騒な一言に、前の机に座っていた生徒がこちらを振り返った。ナマエは占い学の教科書でバリケードを作ることで、暗に「詮索してくれるな」というメッセージを送る。
――よし、成功だ。もう彼女は後方を見もしない。
代わりに隣席のリリー・エヴァンズが、自分のほうを凝視していた。

「ナマエどうしたの、お腹でも痛い?」
「ううん。大丈夫」

何でもない、と云いながら潰れた羊皮紙を手の中にしまい込む。おかげで眠気はすっかりどこかへ消え失せたが、代わりに胃が裏返りそうだ。これならば、睡魔の方がずっとマシだった。けれども目を瞑っても、もう眠れそうにない。
最近のナマエは不規則な波そのものだ。落ちては浮き上がり、慰められてはまた落ち込む。一見法則性がありそうだが、そんなものが見えても状況は変わらないだろう。

ああいやだ、もういやだ。

どうしてこうも次から次へと、面倒ごとが発生するのか。何となく全ての根本はひとつのような気もするが、どうやって絡み目をほどけばよいのかも分からず、手がつけられない。
とりあえず、この手中の忌々しい紙切れをどうやって捨てようか、ナマエは占い学の残り時間を使って考えることにした。

『リリー・エヴァンズとリーマス・ルーピンが図書館でキスしてたって、本当?』


 

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