The Frog in the Well | ナノ


の前に広がるのは、苺のように真っ赤な海原。それもずいぶんと長細い。

どれくらいの間、ここにこうしているのか。はじめは手足をがむしゃらに動かしてみたり、大声を上げたりと忙しかった彼女だが、その行動は全くの無駄であると知ってしまった今、出来ることはたったひとつだ。
ナマエ・ミョウジは人を待っていた。ここ、ホグワーツの廊下で。


The frog in the well knows nothing of the great ocean.


どうやら半分眠っていたらしい。ぼやけた目を擦って見上げると、「今、ぼくは見たくないものを見てしまいました。ほぼ不可抗力です」という顔をした青白い少年が立っていた。

そして2秒後、立ち去った。

「うわああ、ちょっと待って!そこのスリザリン生!」
「断る。極力関わりたくない」
「目が合ったなら助けてよ!」
「僕は急ぐのだ、離せグリフィンドール生」

古ぼけてはいるが手入れの届いた革靴を履くその足を、行かせるものかと必死でつかむ。細いスラックスの裾からは薬品の匂いがしたが、これを逃せば次はいつになるやら分からない。もしかすると明日かもしれない。
まったく、どうしてこんなに人通りの少ない廊下を歩いてしまったのだろう?

「こ、この薄情者!英国紳士は、女の子を見捨てたりしませんよ!」
「相手にもよるがな」
「……おねがいセブルス! こまってるの、助けて」

心の底から嫌そうなため息と共にうめき声を吐き出し、彼は全身の力を抜いた。(……勝った!)
しかし喜ぶのも束の間、無理な体勢がバランスを崩し、ナマエは廊下と熱烈なキスをするはめになった。今日はよほど、ついていないらしい。


 

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