The Frog in the Well | ナノ


にはみな月と同じように、誰にも見せない裏側がある。
by マーク……えーと、マーク・何とか。


The frog in the well knows nothing of the great ocean.


それは恣意的なバランスであって、逆に云えばまったく秘密をもたない人間などいないだろう。人間関係を築く上では、距離が常にものを云う。”自己”と”他者”との境界線が強い人間は、どちらかと云うと利己的になる。境界線が弱ければ、要求に過敏になりすぎて自分が疲れてしまう。人間は本能で非常に微妙なバランスを保って生きているのだ。その感覚は、幼い頃からの対人関係を作り上げてゆく経験から学びとり、共に成長してゆくもので……

「うるせえなジェームズ、トリップは後にしろ!」
「ピンチのときほど心の余裕が必要なのさ、ねっナマエ!」
「わたしの名前呼ばないで!無実なんだから!」

ジェームズ・ポッターは肩をすくめて微笑んでみせたが、ナマエ・ミョウジに眼光で殺されかけたので、少し後ろを走ることにした。やれやれ、もっと状況を楽しまなくちゃいけないよ。
それにしても、花火の火薬の中に膨れ薬を混入するなんて我ながら傑作だ、とジェームズは思う。反応は上々、ただし実行場所には要注意だった。天井まで煤だらけの廊下を見たら、マクゴナガルじゃなくったって悲鳴を上げるだろう(例えばママ、おばあちゃま、ママなどの類いだ)。廊下の掃除を魔法なしで、なんて時代錯誤なことをさせられるのご遠慮願いたいし、そうならないようにうまく逃げられる自信だって彼には当然、あった。

しかし追われるスリルというのも、なかなか乙なものである。

「シリウス、鎧の後ろだ!」
「分かってる!」

フィルチの怒鳴り声がだんだん近くなる。が、もちろん捕まらない。肩の部分が少しさびた鎧の背後、壁の隅をシリウスが杖で軽く叩くと、小さな扉が現れる。先週見つけたばかりの抜け道だ。何が何だか分からない顔のナマエの手を引っ張って、シリウス・ブラックが先頭を切って飛び込んだ。
何だかんだで、ちゃっかりしている親友にジェームズが小さく笑うと、背後の隠し扉がしっかり閉じられた。


 

1/3

×
- ナノ -