あたかも、やけ酒でもあおるように、かぼちゃジュースを勢い良く飲み干す。特大ジョッキを叩き付けるかのごとく、ゴブレットをごとん、と机に置く。そして「この一杯が堪らない」だとか何とか呟いている。それをぼんやり眺めながらリリー・エヴァンズは思った。
ナマエ、あなたそれは完全に、おっさんだわよ。
The frog in the well knows nothing of the great ocean.
ひどく焦燥して談話室に現れたときは何があったかと心配した。リーマス・ルーピンも彼女を気にかけていたようだ。でもこうして元気に夕食も食べていることだし、とリリーは安堵する。
あいかわらず「廊下の床板に喰われかけた」などと、意味不明なことを口走ってはいるけれど。
「今度リリーも行ってみるといいよ、穴に落ちないよう箒を持っていくべきかも。でもほんと、あんな場所に落とし穴なんて悪質じゃない? これは立派なテロ行為だよ」
ナマエ・ミョウジは、まだ興奮が覚めやらぬ様子でニンジンサラダをざくざくとつついている。その隣では、今日も少々顔色の悪いリーマスが、同じくニンジンサラダをフォークで弄んでいた。
「――あのさ。それって、図書館の脇のタペストリーから抜けられる廊下のこと?」
「そうよ、リーマス知ってるの? あそこは危険極まりないよ。セブルスが来ないと餓死確実だったもの」
「うん、いや。そうじゃなくてさ、その落とし穴って、多分そのセブルスのためにあると思うんだけど」
微妙にかみ合っていない会話に、リリーは眉をよせた。そして、ピンと来た。
「……やだ。もしかして、またあの人たち?」
「たぶんね。前にそういう話してたし、”底のある底なし沼”についても調べてたから」
リーマスは苦笑している。恐らくは彼もまた、それが”エキサイティングな悪戯”のひとつであると承知して、密かにおもしろがった一人なのだろう。もっとも、共謀することはないだろうが。
ナマエひとりだけが、首を傾げながらもラザニアを口に運んでいた。
「なにそれ、新しい映画の話?」
「違う。ほら、あの年中下らないことばっかりやってる、おばかさん二人がいるでしょう?」
「テレンス&フィリップ?」
「誰よそれ」
ホグワーツの廊下に落とし穴を作るなんて、それもあのセブルス・スネイプを確実にはめられそうな場所を選ぶだなんて、そんなことをする人間はまず間違いなく彼らしかいないことを、ここホグワーツでは誰もが知っていた。
「シリウスとジェームズだよ」