The Frog in the Well | ナノ


れほど嫌っているわけじゃない。
たぶん、どちらかといえば好きなんだろう、とリーマスは思う。例えばマーマレードよりも苺ジャムの甘さの方が好みだとか、パンプキンパイよりもアップルパイの方が紅茶に合うだとか、そういう些細な差。リリー・エヴァンズと一緒にいると楽だけれど、決してピーター・ペティグリューやジェームズ・ポッター、そしてシリウス・ブラックのことが嫌いなわけじゃない。
近くにいすぎるのが逆によくないのかもしれない、ともリーマスは思う。

「……リーマス?」
「あ、うん。ごめん何だっけ」

慌ててリリーに視線を戻すと、持ち上げていたカップが揺れて、べしゃり、と紅茶が溢れた。とっさに謝りながら、拭くものを探す。しかしリリーは、あらかじめ知っていたように布巾を取り出すと、さっと片付けてしまった。

「大丈夫、煎れ直すわ」
「ありがとう。リリーはきっといいお母さんになるだろうね」
「だって、あなたと全く同じ行動をした人がいるんだもの。デジャヴよ」

「へえ、それって誰?」と尋ねると、リリーは嬉しそうにナマエ・ミョウジだと答えた。二人は仲がいいのだ。

「そういえば、今日は一緒じゃないの。そのナマエは」
「夕方に図書館で別れてから見てないわね。きっとどこかで昼寝か、散歩でもしてるんだわ」

まるで、おじいちゃんのことでも話しているみたいだ。リリーは老人介護も完璧にこなすのだろうな、とぼんやり考えていると、紅茶を煎れ終えた彼女が椅子にかけた。甘くやさしい匂いがする。

「そういえば、あなたも散歩していたらしいじゃないの。朝早くに」
「いつ?」
「さあ。一週間前だったかな。私じゃなくて、ナマエが見たって」
「……朝に、僕を見たの? ナマエが?」

喉が引きつるように、ざわざわと落ちつかなくなるのが分かった。紅茶が甘すぎたのだろうか。確かにいつだって、リリーに「お砂糖入れすぎよ」と注意されてはいるのだが。
何か云わねば、と口を開きかけたとき、不意にソファが沈みこんだ。噂をすれば何とやら、とはよく云ったものだ。
リーマスの隣に飛び込んできたのは、件のナマエ・ミョウジだった。

2. Strawberry Fields



 

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