The Frog in the Well | ナノ


くついていない、と少年は思う。
何が楽しくて、夕食の時間を廊下に埋もれた女生徒を救出するのに使わねばならないのだろう。そもそも、こんな場所に”落とし穴”を作ったまぬけはどこのどいつだ(はまる方もはまる方だが)――大体、彼女も何だってこんな廊下などを通るのか。少なくとも今までで、ここを歩いて生きている人間とすれ違ったことなど、一度もないというのに。

「ギャー!!か、髪の毛はさんでるハゲる!ハゲるよセブルス!」
「いいから左手も出して掴め。あとうるさい」
「うるさいですって!? こンの、エセ紳士……あっうそゴメン真面目に助けてください」

ナマエ・ミョウジは涙目になりながら、すがるように両腕を差しだした。はじめから素直にそうすればいいのにと思いながら、セブルスはその手を引いてやる。

「……ありがとう。ちょっと死んじゃうかと思った。本当に、ここで死んでしまうのかと……」
「穴に落ちたくらいで人は死なん」
「だ、だって2時間くらい誰も通らなかったのよ!人っ子ひとり!お腹もすいたし寂しかったし、すごく眠たかったわ!実際、ちょっと寝たけども!」

しおらしく礼を云ったかと思えば、ふたたび喚いたりと忙しい。ショック状態で興奮しているのだろう、とセブルスは思うことにした。このテンションに逐一応えていたら、身が持ちそうにない。

「ならば忠告してやる。ここは全くと云っていいほど生徒も教師も、ゴーストすらも利用しない廊下だ。今後は避けて通るべきだな、ナマエ・ミョウジ。こんな罠も見破れないようならば」
「でも、じゃあ、なんでセブルスはここに来たの? よく通るの?」
「だったら何なのだ」
「いや、また落ちてもセブルスが見つけてくれるかな……と」

彼女は変わっている、とセブルスは思う。「すぐに人に頼ろうと考えるな」と返すと、ナマエは恥ずかしそうに「ハハハ」と笑った。
べつだん、彼女とは友だちでも何でもない。誇り高きスリザリン生とグリフィンドール生が仲良しこよし、だなんてまっぴらだし、あの赤いタイを見る度に苦々しい思いに駆られる。水と油のように、本質的に違うものなのだ。多分、お互いに。まあ、そもそも特に理由もなく毛嫌いし合っているような気がするけれど。
ただ、彼女はその中では少し”異質”だ。あのリリー・エヴァンズにも云えることだが、あえていうならばそれが助けた理由だろう。

もしかすると、ナマエ・ミョウジという人間を自分はそれほど嫌っていないのかもしれない、とセブルスは思った。


 

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