The Frog in the Well | ナノ


のみぞ知る、両親は自分の娘が真夜中の寮を抜け出して校内をうろついていようとはよもや知るまい。午前3時、ナマエ・ミョウジはこっそりと寮の抜け穴をくぐりながら、遠い地にいる父と母に心から詫びていた。むろん、誰にもばれないように廊下をはいつくばりながら、小声でだ。

「お父さんお母さんごめんなさい、不良になったわけじゃないのよ。これは己のケジメのためであり、ナマエはドラッグもやってないし窓ガラスも割ってない、そして盗んだマグルのバイクで走り出したりもしていません」
「……一体なんの話だ、それは」

とつぜん頭上から声がふってきて、ナマエは飛び上がらんばかりに驚いた(実際には飛び上がりたかったのだが、かぎりなくトカゲに近い姿勢からでは無理があったのだ)。

「セ、セブルス!?またいつかのデジャヴ!」
「声が大きい。きみはこんな時間にうろついて、寮官に許可は得ているのか?それとも具合でも悪いのか?」

頭の、と続けられなかったのは幸いだった。セブルス・スネイプの視線があまりに痛々しく、ナマエはとりあえず体を起こすことにした。髪の毛を整えながら、ぎこちない笑みを作る。このあとの匍匐前進行程を考えると、あまり長く足止めされているわけにはいかない。

「大したことじゃなくて、ええと、昼間にちょっと忘れ物を……。そりゃ罰則は知ってるけど、とっても大事なものだから」

彼は明らかに「うさんくさい。怪しさ100%だろ」という疑りの目でこちらを見ている。それでも、まさかこれから校外に出る――しかもリーマス・ルーピンに呼び出されて――とは口が裂けても云えない。それがシリウス・ブラックたちと交わした約束だし、何より、云えば絶対に止められてしまう。

「僕も一緒に行ってやろうか?」
「ありがとう。すんごい貴重な申し出だけど、今日は遠慮しとく」
「本当に大丈夫か」
「うん。通信教育でマーシャルアーツ習ってたしね」

空手チョップで空を切ってみせると、やがてセブルスは苦々しくもうなずいた。去り際に「ゴーストには気をつけろ」という助言を残し、抜け道から寮の方へきびすを返して歩いて行く。ナマエはほっと胸をなでおろしつつ、またゴーストという存在を思いだして怯えつつも、城の外へ通じる道へ向かって走り出した。

人をあざむく行為は、どんな理由があっても心地のよいものではない。しかし悪意のない嘘というものは、必ずしも罪にはなりえないのだとナマエは信じている。

19. Little White Lie

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