The Frog in the Well | ナノ


「あなたがたのように手のかかる問題児は、入学以来初めてです!」

ホグワーツ城で最も高い塔の天文台の上で、また今日も甲高い声がこだまする。――時刻は午前2時。生徒たちは眠い目をこすりながら教科書を鞄につめこんでいたが、とある3人だけは妙に元気がいい。それもそのはずで、彼らは授業をまるまる居眠りに費やしていた。そうして、マダム・シニストラに「もう行ってもよろしい」と仏頂面で追い払われるまでグダグダといいわけを並べ続けていたのだ。
『すみません。遺伝性のナルコレプシーで……』
『お肌の代謝をうながすホルモンは10時から2時までに活発になるそうですよ、先生』
『ところで先生、睡眠学習って知ってます?』

やがて軽やかに階段を降りながら、ジェームズ・ポッターがローブの下からぐるぐると巻かれた布を引っぱり出した。彼らは廊下の死角でそれに包まると、寮とは逆方向へとずんずん歩いて行く。まだ起きていた絵画たちが数枚、飛びだした3足のスニーカーをおもしろそうに眺めていたが、ほとんどは見て見ぬふりをしてくれた。

「アニメーガスの件で絶交されなくてよかったね。今夜のことまで喋ったらきっと彼、ぶっ倒れたに違いないけど」

埃っぽい空き部屋に入ると、3人はそそくさと散り散りになった。

「おまえ、エヴァンズとの約束はどうでもいいわけ?」
「哀しませないとは云ったけど、危ないことをしないとは云ってない」
「……だけど、また勝手なことして、リーマス怒るんじゃ……?」
「だろうね」
「下手すりゃナマエがおまえを殺すかも。いや、その前にエヴァンズが殺すか」

まあまずはリーマスに殺されるな、とシリウス・ブラックが宣告すると、ジェームズはわざとらしく肩をすくめた。冗談ととらえているのだろうが、リーマスは言葉通りやるときはやるタイプだろう、とシリウスは思う。

「そのときは一蓮托生。だけど僕らは思っているより、孤軍ってわけでもなさそうだ」

ジェームズはポケットからがさがさと白い紙を取り出した。杖でそっと叩きながら、「アパレシウム(現れよ)」と唱えると、その上にはとても達筆な、だが簡素な文面が浮き上がった。

「これ、ダンブルドアからの手紙なんだけどさ」

しれっと云い放たれたその名前に、同室の二人は思わずのけぞった。

「おいおいおい、校長からっておまえ、一体何やった!?」
「停学届?退学届?それとも、不幸の手紙……?」

ジェームズは腰に手を当て、「ノー」とかぶりを振る。

「人聞きが悪いんだから。手紙といっても、書いてあるのは漠然とした情報だけ――ダンブルドアはめずらしいペットを飼っていて、夜中にときどき敷地内を散歩させてるっていうね」

それを聞いたシリウスは眉をぎゅっと寄せ、それから「あっ」と小さく声を上げた。ピーター・ペティグリューだけは、いまだに事情が飲み込めていないようだ。

「ちなみに僕がこれを受け取ったのは先月、まだリーマスとやり合う前だ。追伸にこうも書いてある、『みなさま、閲覧禁止の棚をあまり荒らしてくれませぬよう』」
「……あのじいさま、マジで侮れねえな」

あのビー玉のような目がこちらに向いているのだと思うと、どこか心強くもあったが、警告ともとれるその文言が助け舟か、はたまた豪華客船なのかは、まったく神のみぞ知る事実である。

 

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