The Frog in the Well | ナノ


「ひとつ提案があるんだよ」

ジェームズ・ポッターは、何気ないふうにそう云った。

「黙っておいた方がカッコいいと思ったんだけどさ。僕ら、アニメーガスになろうかなって」

すごくない?とジェームズが笑いながら、ばしばしと肩を叩く。つられたように笑い返したリーマス・ルーピンは、もう一度彼が何と云ったのか確認しようとした。

「えーとOK、なんになるって?」
「アニメーガス」

アニメーガス。
もちろん聞いたことがある、それは『動物もどき』のことだ。たしか変身術の授業でマクゴナガルが猫に、いや、猫がマクゴナガルに……

「これでも色々調べてね、噛まれても平気な事例にあたりをつけた。前に、屋敷に住みついた野良猫の話をしてたろ? 動物同士なら襲われない。これって大発見かもよ!」

またいつものジョークに違いない、と部屋を見回すが、シリウス・ブラックが笑いを堪えてニヤニヤしてもいないし、ピーター・ペティグリューも黙ってこちらを見ている。リーマスの背中がぞっと冷えていくのが分かった。

「僕のために? 本気?」
「本気だとも。それに、きみが思ってるよりちゃんと考えてるから大丈夫。と云っても僕ら、まだ方法すら分かんないんだけどね!完成までに何年かかるか賭ける?」
「……冗談だって云ってよ、大体それイリーガルじゃ……」
「規則破りは僕のライフワークだもの。非合法大歓迎さ」
「さすがにムショはやだけどな。俺は」
「バレても口封じすればいいんだって」
「それでも俺はムショはヤダ」
「ぜんぜん……全然よくない、何考えてんだよ!きみら、バッカじゃないの!?」

怒鳴りつけられると、ジェームズは一瞬きょとんという顔をした。その間の抜けた表情に、隣のシリウスが吹き出す。リーマスはとりあえず、5年分くらいの恨みを込めた目で彼を睨みつけた。

「だめだ。ダメダメよくないよ、そんなの絶対に止めて。もし何かあったらどうす――」

みなまで云わぬうちに、ジェームズに口の中へチョコレートを突っ込まれた。それがリーマスのお気に入りの目柄のものであることはすぐに分かったのに、いつもと違う味がした。にこにこしているジェームズの目は妙な光を宿していて、リーマスは少しだけそれが怖かった。

きっとこのハシバミ色が見る世界には、地平線なんてないのだろう。

18. Event Horizons



 

3/3

×