The Frog in the Well | ナノ


り落ちる鞄を押し上げながら、ナマエ・ミョウジは廊下をつき進んでいた。このところのストレスが顔面にありありと現れている。鞄にぎっしりつまった課題、この時期特有の湿気、そして大部分は"とある人物"のせいだ。

「ナマエ、あの、ちょっと話があるんだけど……」
「ことわるッ!!」
「ヒィィ!調子に乗ってすみませんでした!」
「あら、ピーターじゃない。どうしたの」

ピーター・ペティグリューが自分に用事とは珍しい。こちらの言動にいちいち肩を震わせるピーターにうながされるまま、ナマエは近くの空き教室まで歩いて行った。

「遅いぞピーター」

待っていたのはシリウス・ブラックである。ナマエは反射的に顔をしかめた。

「今度はなに? お悩み相談室でもやってるの?」
「なんだ、おまえ機嫌悪いのな」
「そんなことない。リーマスの件ならわたしに関係ないし、」

思わずこぼれた言葉を、すぐに取り消したくなった。あれだけ自分の頭に血を上らせたせりふと重なったのだ。リーマス・ルーピンも、ナマエも、お互いに関係ないことなど少しもない。
それに、シリウスに当たるのはお門違いもいいところだ。

「……ごめん。今の、態度悪かったね」
「べつにいいよ。調子よくないときってのは、誰でもそんなもんだろ」

ナマエはシリウスをハグしてしまいたい衝動に駆られたが、鞄の中身を床にぶちまけそうなのでやめておいた。かなりの重量で今にも自然落下しそうではあるのだが。

「ま、話ってのはお察しのとおりでさ」
「云われたとおり待ってるけど、歩み寄る気配もないわよ。それどころかリリーとあんな噂になって」
「うん。その件は、うちの部屋では禁句になった」
「あのときのジェームズ怖かったよね……」

いまだ床に座っているピーターがそっと膝を抱えたので、ナマエは鞄からチョコレートを一枚出して、渡してやった。

「リーマスにも歩み寄る気はあんだよ。けどあいつ、すげえ頑固だからな。そのくせ試験時期のマクゴナガル並にピリピリしてて、俺たちにも大迷惑――そこで、ひとつ提案があんだけど」


 

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