The Frog in the Well | ナノ


「卒業まで何年あると思ってるのよ。一生リーマスと口をきかずにいるつもり?」
「それはさすがに、ないと思います……」

そんなわけがない、それは絶対にいやだと彼女自身も分かってはいるのだろうけれど、冷戦状態の先が見えてこない。二人とも相当に頑固な性格なのだ。下手をするといつまでもこのままかも知れない、とリリー・エヴァンズは気をもんだ。

「何が原因かは知らないけどね、はやく仲直りなさいよ。生活に支障を来すから」

かけすぎかけすぎ、とナマエ・ミョウジの手からメープルシロップの瓶を奪い取る。彼女の皿の上では、ちょっとした洪水が起きていた。パンケーキどころか、隣のベーコンまでびっしょりとシロップに浸っている。朝からあまり見たくない光景だ。

「でも、ほら、こうやって食べたら美味しいかもしれないよ。なぜならメープルシロップは奇跡の調味料。肉類だってきっと例外ではないはず……」
「じゃあ残さず食べるのね?」
「あれ、急に腹痛が……やだ、睨まないでよリリー!怖い!」
「食べ物を粗末にするのはダメ」

ナマエは「エヴァンス軍曹は鬼であります」などと喚きながら、フォークでシロップ漬けのベーコンをいじくり回している。
喧嘩をしたという翌日の様子と、今の様子はまったく違う。女の子というものはすべからく噂好きで、図書館でのリーマス・ルーピンとの噂は、当然リリーの耳にも入っていた。それでも、彼女は直接その噂を否定もしなかった(あながち嘘ばかりでもなかった)。そのまま放置することで歯車が回るかもしれない、どちらからでもいい、焦って踏み出せばそのままそれが仲直りに繋がるかもしれない。そう思ったのだ。
こういうものはいわゆる余計なお節介であり、他人同士の駆け引きを操作することに多少の嫌悪感もあった。それでも、”お膳立て”しなければ動かない場合もある。

「ハイ、食べました!ジェームズたちが来たからもう行くよ」
「そうね」

もっとも、自分はその例には含まれないとリリーは自負している。

17. Crimson Marsh



 

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