The Frog in the Well | ナノ


「ハハハ、なんか泥沼化してんな」
「おのれ他人事だと思いやがって……覚えていたまえよ。シリウス・ブラック君」

眼鏡を外してニッコリ。ジェームズ・ポッターを知るものは、これだけで大抵は黙りこむ。
羽ペンをくるくる回しながら、ジェ−ムズは壁にかかったカレンダーを眺めた。月日が経つのは果たして早いのか遅いのか。どちらにせよ、準備期間がなさすぎることは否めない。

「けどあいつ、どうするつもりなんだろうな」

あれだけ啖呵を切った手前、彼らにはリーマス・ルーピンの”些細なトラブル”の解決をかなりうまくお膳立てする必要があった。それもスピーディに、だ。
ことが急を要するようになったのは、小さな泥沼がひとつふたつと増えてしまったせいだった。逆に考えれば、問題を一気に解決できるチャンスでもある。しかし、友情と同じくらい、ヘタをするとそれ以上に男女の関係とは繊細なものだ。

「もしきみがリーマスだったら、仲直りするために打ち明けるのかい」
「さあなあ……どうだろ。想像できん」
「でもさ、彼、僕らにバレてから丸くなったと思わない?いつぞやの紛争が懐かしいくらいに」

ほんの少し前までリーマスの周りを囲んでいた灰色の壁は、ほぼ取り崩されて向こう側が見えている。ただ、それはこちら側からはという話であって、全体を見ればほんの一部分が崩れたにすぎないのだ。無論、その一部分さえ完全に消えたわけではない。
一月前を思い出す。ジェームズは思わず右頬を押さえて、ふふふ、と笑った。

「リーマスってほんと、面白い子だよねえ」
「……よく云うぜ。昨日まで刺し殺そうとしてたくせに」
「あれはポーズだよ、ポーズ。僕はリリーを信じてるもんね」

ちなみに諸悪の根源であるゴシップ羊皮紙は、ジェームズが消化した。それは文字通り本当に、むしゃむしゃと。

「信じてるも何も、おまえエヴァンズに嫌われてるだろ。はっきり云って、リーマスとナマエがくっつく可能性より低いと思うぞ。いい加減諦めろよ」
「いいやブラックくん、きみは実に浅薄な思考の持ち主だな」

勝負はまだまだこれからだろ、と不敵に微笑むと、シリウスが隣で吐くマネをした。

「だって当然じゃないか。卒業まで何年あると思ってるんだ?」


 

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