シリウス・ブラックが妙な視線に気がついたのは、占い学が終わって廊下に出た時だった。
忘れ物をしたピーター・ペティグリューをしぶしぶ待っていると、物陰からどこぞの刑事のようなサングラスをかけたナマエ・ミョウジが、こちらを伺っていたのだ。
「おま……おまえ……ビビるだろうが!やめろよな、そういうの!」
ナマエはしきりに周囲を気にしながら、人差し指を唇に当てた。例の噂はおさまったものの、依然、シリウスと二人でいる現場を女子に目撃されるのは怖いらしい。
それからなぜか顔を赤らめて(サングラスでほとんど隠れてはいるが)、蚊の鳴くような声でこう云った。
「シリウス、まだ奉仕活動中だったりする?」
その後は悲惨だった。
ジェームズ・ポッターはベッドの支柱に頭をがんがん打ちつけ出し、眼鏡が割れていることも気にせずに高笑いを続けている。彼の周囲には無意識で出したらしい可愛い子鹿たちがぴょこぴょこと駆け回っていた。一方のリーマス・ルーピンは、真っ赤になったかと思えば次の瞬間には顔面蒼白になり、窓辺で膝を抱えては買いだめした高級チョコをドカ食いしている。
シリウスは地獄を見ていた。
「リーマスごめん!きみに恨みはないけど、ちょっとナイフで滅多刺しにさせてほしい!」
「おい落ちつけジェームズ、ただのゴシップなんだろ?な、リーマス、そうだろ?」
「あー……うん……7割くらいはね……」
「ジーザス!!まさかの3割!」
大袈裟にグシャリと崩れ落ちるジェームズを遠巻きにしながら、シリウスはリーマスの右手を押さえた。そこは目だ、口じゃないぞリーマス。チョコの角が刺さる。
「リーマス・ルーピン!大体、きみがなァ!つまんねー意地なんて張るからこんなことになるんだ!何でもいいからさっさとナマエと仲直りしろよもう!ばか!!コンチクショー!!!」
皆が想像しているようなことではなかった、といくらリーマスが説明してもジェームズの怒りは治まらなかった。それどころか弁解すればするほどに、彼の心は荒れた。
しかし逆に、違う場所には火が着いたらしい。幸か不幸か、いわゆるお膳立ての必要性に、彼らは迫られることになったのだ。こういうのを怪我の功名と云うのだろう。眼鏡は割れたままだが。
「兄弟、こうなったらもう何としてでも問題をスピード解決させようじゃないか!セクシーかつ!スマートに!!」
そしてピーターは、いずこに。
16. Biting a Lemon