彼には心に決めたところがあるのだろう、とリリー・エヴァンズは思う。それも頑固に。だから何も云わないのだと。
”何か”を、たぶんとても大切なものを、絶対に目立たないように木の根元にでも埋めている子供みたい。それとも、絶対に落ちないひどい汚れを白い石鹸で一生懸命に洗い流そうとしているのかしら?
リーマス・ルーピンはゆっくりと目を閉じてしまった。彼のこんなふうな顔、弱々しくて死んでしまいそうな顔を見ると、リリーはいつも叫び出したくなる。けれど、この図書館でそんなことは絶対にできっこないと思っている辺り、まだ理性はたっぷりあるようだ。
「妬けちゃうわね」
「なにが」
「ナマエ、最近あなたのことばっかり気にしてる。いつからそんなに仲良しになったの?」
リリーはリーマスを見下ろす。リーマスも、リリーを見上げた。
「あのね」
「うん?」
「僕、彼女に嘘ついてるんだ。でも、今更それを捨てるのは怖い。それに女の子と、あんなふうに喧嘩したのも初めてで……どうしたらいいのか分からない」
そういうのわかる?とリーマスが尋ねると、リリーはにっこりと微笑んだ。肯定とも否定ともとれる反応だ。
「そうね。嘘をつかない人なんていない、逆に云えば、誰でも少なからず嘘をつかなきゃ生きられない。そんなの、あなただけじゃないわ」
「リリーも何か嘘をついてるの?」
「あら。女の子ってのは秘密が多いものなのよ」
片眉を上げてみせると、リーマスは困ったように目を揺らした。不安で怖いのは誰でも同じことだ。誰しも相手のことをよく知っているわけではないし、相手だって自分をよく知らない。でも、気にしてないと云えばそれは、嘘だ。相手に好意があるのなら、無関心ではいられない。
なるように任せたら、と呟いて、リリーは鳶色の柔らかい髪にそっとキスを落とした。
「僕、今度生まれ変わったら女の子になりたいな。リリーみたいな子」
「じゃあ髪にリボンを結んであげる」
垂れた後れ毛を一房すくうと、リーマスがくすぐったそうな笑い声を漏らした。
15. Speech Is Silver