The Frog in the Well | ナノ


いことなどではない。むしろ、正しき行いと呼べるだろう。頭でならばそう理解できる。しかし理解と納得とは、まったくの別物ではないだろうか。
天気の話でもするみたいな、やけにあっさりとした口調で、彼女は今一体、何と云った?

「それで、わたしは知りたいと思ってるの」

ナマエ・ミョウジはそこまで話すと、息をついて紅茶を一口飲んだ。リーマス・ルーピンもそれに倣う。
彼女がごく冷静に、順序を追ってくれているおかげで、目の前が真っ白になることは免れた。でもこれならばいっそ、殴り合いにでもなった方が気が楽だった、と本気でリーマスは思った――あのときみたいに。
つい最近のことだ、傷は消えてしまったけれど、ほんのつい最近のことだった。

「……僕は」


僕は、嘘で生きている。
こんなの辛いだけだって、そんなことくらい分かっている。でも、ジェームズとシリウスとピーターはそれを知って、助けてくれようとした。本当ならそれは良いことなんかじゃない。間違いがあったらと思うと、怖くてたまらない。逃げてしまいたい。だけど、それで僕はやっと助け出され、救われたんだと思う。すごいことなんだ。そんなことはありえない、あってはいけないと思っていたから。だから、きみまで知ってくれなくていい、巻き込まれなくていい。もうこれ以上、誰も知らなくていい。だってきみは女の子だし、それに、



「僕は、ナマエには云えない。云うわけにいかない」
「どうして」
「だってそれは、つまり……きみが僕を好きだと思う感情は、きっと普通とは、違うと思うんだ」

「は?」とナマエは気の抜けた声を発した。

「そんなに簡単なことじゃないし、僕ときみとはずいぶん違う、そしてきみはジェームズやシリウスやピーターとも違う。僕だって他の誰かになれるならそうしたい、でも僕は僕で、それは仕方がないことなんだ。もう戻らないし、どうしようもない。どうにもならないことだ」

それを、ずっと認めて生きてきたのだ。いやでも月に一度は認めざるをえなかった。ひどい云い方だと分かっているのに、べらべらと壊れたように口が動いて止められない。あのジェームズ・ポッターと云い合いをしたときだってここまで最悪ではなかったはずだ、とリーマスは思った。

「だから、きみが知りたいと思う必要はない。だって僕は普通とは違うし、そう思ってくれただけでも十分すぎるくらいだ。今、すごく嬉しいよ。でももう、それだけでいいんだ。きみは何も知らなくていい、だってナマエは……」
「そんなの、」

ナマエが立ち上がったはずみで、古い机がぐらりと大きく揺れた。


「そんなのは、ただのエゴだわ。知るもんですか」


あれ、彼女泣いてる。どうしよう。

「リーマスって保守的で、でも見栄っ張りですごく、すごく自分勝手だわ!なんだか、もう、腹が立ってきた。このエゴイスト、リーマス・ルーピンのアホ!おたんちん!」

「You Idiot!」と、彼女にしてはめずらしく汚い言葉で人を罵倒し、ナマエはものすごい速さで走り去った。見間違いではない、たしかに泣いていた。

揺れる紅茶とまずいパイをのせたまま、机はぎしぎしと揺れ続けた。残された少年は鳶色の髪をかき回して、勢いよく自分の目を両手で覆った。

13. My Iron Will



 

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