The Frog in the Well | ナノ


にでも”何か”があることは、分かっている。そしてそれが、他人と比べることなどできないということも。一人一人が己を量る秤がそもそも違うのだから、重さの基準を設けることはできないし、する必要もない。

「それを……僕に聞くために、ここへ呼んだの?」
「うん」

言葉を選んでゆっくりと、あくまでも冷静に。ナマエ・ミョウジは心を落ちつかせた。

「あなただって気づいたのは最近だったの、わたし、目があんまり良くないからね。でも、もう何度も見てるから分かる。明け方に、あの花壇の横を通ってきて」

リーマス・ルーピンの目が開かれたまま、硬直した。

「体じゅう傷だらけで」
「……すごく……高い木から落ちたんだ」
「あんな早朝に木登り?」
「あれはつまり、その、ルーピン一族に伝わる成人前の儀式みたいなもので……」
「ふうん」

白々しい。ひどく困っている姿を見て、急に心が痛んだ。掌の汗が止まらない。けれどここで「やっぱり気のせいだったみたい。ごめんね、忘れて」で済ませられるわけがない。すでに言葉は、責任は発生し、動き出している。
これは覚悟なのだった。あの日フクロウ小屋で、ナマエが自分で決めたことだ。

「今まで知っていて、ずっと尋ねなかったのは、ひどいことだと思ってるわ。だから絶対にとは云わない。でも、”何か”があるのはもう、わたし知っちゃったんだもの。それが”何”なのかを知りたいと思うのはごく自然な、普通のことだと思う」
「普通の……」
「だってリーマスは、他人じゃないもの。こうして一緒にお茶も飲むし、宿題もするし、会えば挨拶だってするのに、あなたのその傷や行動に疑問を持たないのは……そういうことが気にならないのは、やっぱりおかしいよ。違う?」

どうしたらいいんだ、というふうにリーマスの目が泳いでいる。ティーカップを持つ手も彷徨っている。その気持ちは、分かりすぎるほどにナマエにはよく分かった。

「その人を好きなら、きっと、知りたいと思うはずでしょ。違う?」

結局、正義感だとか義務感だとか、そういうもののことじゃない。きっと、自分が知りたいだけなのだ。日の当たらない巨木の下に隠れている理由が、知りたいだけ。

ただ知りたいと思うことは、決して悪いことではないはずだから。


 

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