The Frog in the Well | ナノ


しだけ頬を引きつらせて、ジェームズ・ポッターは眼鏡をぐい、と押し上げた。笑いを堪えているのだろう。

「よくぞ頑張ったもんだ、シリウス」

シリウス・ブラックは乱暴にドアを閉めると(背後でピーターが小さく飛び跳ねたのが見えた)、不自然な笑みを浮かべていたジェームズを睨みつけた。外で一部始終を聞いていたのに入室しなかった理由は、聞かなくても分かる。単に、おもしろがっているのだ。

「俺たち、嫌われてるにもほどがあるぞ」
「きみは確実にそうだろう。リーマスは殺意すら抱いているかも。就寝時は気をつけろよ」
「バカ。そうなったら道連れだかんな」

シリウスが顔をしかめるほど、ジェームズはさも楽しそうに微笑んだ。そうして、シリウスの眉間の渓谷は深くなってゆく。

「それにしても、ちょっと不躾だったよね。あれじゃピーターが気の毒だ」
「だったら、お前が聞けばよかったろ!」
「あのねえシリウス。何度も云うけどさ、タイミングってものがあるだろ? リーマスは頑固だもの、一筋縄じゃいかないよ」
「じゃあどうすんだよ」

ジェームズは、シリウスの無鉄砲な実行力は感心に値するものだと思っている。方針は間違っちゃいない、だが、媒体が妙に屈折しているのがよろしくない。彼らが知りたいことは彼の”悩みごと”ではないのだから。
これは同室の全員が協力し合わなければなし得ない偉業だ。それほど、リーマス・ルーピンの不可解な行動や状態――夜半の外出、傷だらけの体、頑なに関わり合いを避けるあの態度――について、ルームメイトは頭を悩ませていた。シリウスは気になりすぎて勉強が手につかないとまで主張し(半分は宿題をサボるための口実だが)、彼との確執が原因で落第すらしかねないとダダをこねた。

「ほら。知ってるだろうけどさ、僕ってセクシーかつスマートじゃない?」
「……ジェームズ。蹴り入れていいか」
「つまりね、もっと慎重に作戦を練らなきゃダメだって云ってるわけ。僕もピーターも、彼を放っておけないのは同じなんだよ。わかるだろ? ホグワーツ中の女の子が僕を放っておかないのと一緒でさ」
「……なあジェームズ。全力で蹴っていいか」

つまるところ彼らが知りたいのは、リーマス・ルーピンの”本質”だった。それは今はまだ、灰色の壁の向こうにある。

1. Grayish Wonderwall



 

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