The Frog in the Well | ナノ


いた空気の廊下を歩きながら、ナマエ・ミョウジはホグワーツの厨房から大量に消えたであろうタピオカのことを考えた。
それから、シリウス・ブラックのことも。
彼に悪いことをしたかもしれない。そう呟くなり「そんなことはない、断じてない。むしろ僕が奨励してやる」とセブルス・スネイプに真顔で云われたが、寮に帰ったら謝ろうとナマエは思った。

「でもさ、シリウスはそれだけ人に好かれてるわけよね。誰かを好きになるっていう、それ自体はとっても良いことだわ。リーマスもこの前そう云ってたけど」
「ルーピンが?」
「うん。ねえ、そういえばセブルスは、リーマスについてどれくらい知ってる?」
「ミョウジ、それはどういう……」

セブルスがみなまで云い終わらぬうちに、廊下の向こうからくるくる頭のメガネ少年が息を切らせて走って来た。背景に花でも背負うほど、ものすごく爽やかな表情を貼りつけて。

「やっと見つけたよナマエ!ホグワーツ中の女子トイレまで探しちゃった、女の子に見つかって、僕ちょっと泣きそうだった!」

セブルスとナマエは同時に、顔を引きつらせた。

「実はシリウス、リリーからこっぴどい説教くらっちゃってね。何時間も暖炉の前に体育座りで、God Save the Queenを歌わされてるんだよ。あれはあれでおもしろいけど、きみが帰って来ないと僕もリリーに殴られちゃうし、もういい加減に胃腸のほうが限界だから寮に戻ってほしくて――あれ、スネイプじゃん。ここで何してるんだ?」

ものすごい勢いでまくしたてるジェームズ・ポッターに脅威を覚えながら、ナマエは慌てて二人の間に体をすべりこませた。ここで喧嘩が勃発したら、自分ひとりではどうにもできない。ジェームズのナチュラル・ハイは、女の子の嫉妬よりもある意味怖かった。

「ええと、ちょっと困っているところを……助けてもらったの。ね、セブルス」
「ああ、まあ……」

ふうん、と興味のなさそうな顔で呟くと、ジェームズはすぐにナマエの体を反転させて背中をぐいっと押した。

「さあ帰るぞ、我らが女王様の元へ!今ならまだMBE勲章はもらえるかも!」
「……そうだね。あ、セブルスありがとう。タピオカとか色々」
「いや、うん。別に」
「じゃあなスネイプ、ちゃんとトリートメントしろよ!」

血走った目で「リリー」を連呼するジェームズに引きずられながら、ナマエは遠のくセブルスに手を振った。彼はひどく面倒そうな顔をしたが、角を曲がる手前でかすかに片手を挙げてくれた。

10. Be Not Creamed



 

3/3

×