The Frog in the Well | ナノ


に始まったことじゃない、いつもと同じこと。
毎月訪れる、同じ夜、同じ朝。医務室までの道のりも、痛みも、濃い霧さえも同じ。じっと耐えれば、ただ単調に繰り返せばそのうち過ぎ去ってゆく。くたくたに疲れた身体に鞭打って、足を前後に動かすだけだ。
傷だらけの自分も朝もやの中では、まだ幾分かましに思えた。

「リーマス」

ホグワーツ城まであと少し、というところで、彼らの姿が見えるまでは。

「おはよう」

――なんで、なんで、なんで?

リーマス・ルーピンは目眩を覚えた。頭がひどく、くらくらする。巨大なハンマーで思い切り殴られたみたいに、がつん、と目の前が暗くなった。
もしかすると、いいやだめだ。これは確実に、吐く。
ぐるりと踵を返した瞬間、喉の奥からこみ上げるものを抑えきれず、地面に吐き出した。胃の中にはほとんど何も入っていやしないのに、体の中身が裏返ったみたいだ。こちらへ誰かが駆け寄ろうとするのを弱々しく手で制して、ようやく顔を上げると、そこには眉間にぎゅっと皺を寄せたシリウス・ブラックがいた。ピーター・ペティグリューは真っ青な顔で、少し遠くからこちらを見ている。

「やあ。大丈夫かい、だなんて聞くのは無粋だな。手を貸そうか?」

ブナの木に寄りかかっていたジェームズ・ポッターが、ゆっくりと木から身体を離した。口調は普段と変わらず穏やかだが、それが逆に気味が悪い。

「要らない」
「そう。やたら血が出てるとこ悪いけどさ、ちょっと時間をくれないかい」
「時間って……なんの、」
「こんなの全くフェアじゃないことは分かってるんだよ。だから、僕らのいいわけくらいは聞いてほしいなって」

ぼろぼろにすり切れたシャツの袖で掌を拭う。吐いたせいで目に涙が溜まって、前がよく見えない。

「まあ、話すのは全部こいつだけどな」

シリウスはそう云うなり、まだ朝露に濡れた芝生の上にどかりと座った。ちょうど学校を背に、まるで逃走ルートを経つように。
白んだ空に、鳥の鳴き声が聞こえた。

7. Shrinking Violet



 

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