The Frog in the Well | ナノ


を細めて白い視線を送りながら、シリウス・ブラックは「ああ早く寮に帰りたいエヴァンズのいない我が心の男子寮に!はやく!」と呪詛のように念じ続けていた。

「閲覧禁止の棚にいたことを責めてるわけじゃないわ。隠すという行為がやましいの!」
「あのなあ。エヴァンズ、お前しつこいよ……」
「彼女がしつこくついてくるなんて最高だ!シリウスどうしよう!ハハ、困った!」
「ジェームズ・ポッター。あなたはいい加減に黙って。割るわよ」
「ねえねえ、こんなに廊下で騒いで怒られたりしない? 罰則うけたりしない?」
「罰則を恐れては偉業はなしえんぞ、ピーターよ!」

ジェームズ・ポッターはわざとのように、更に大きな声を廊下にこだまさせた。
次第にゆるゆると足を止めたリリー・エヴァンズは「だって」と詰るような目を静かに伏せ、「心配なんだもの」と消え入りそうな声で呟いた。突然しおらしくなった彼女に、少年たちも倣って足を止める。

「何か危ないことをするんじゃないかって、不安になるのよ。私のおせっかいで済むことなら構わないけど……何かがあってからじゃ遅いわ。そうでしょ?」

不安そうに瞳を揺らしているリリーは、あらためて、本当に可愛い女の子なのだと思わされた。リリーに夢中なジェームズだけではなく、彼女を苦手とするシリウスさえも、素直にそう思った。

「……Yes, mam.」
「あなたのママじゃないわよ」

はは、と笑いながらジェームズは「だいじょうぶ」と優しく囁いた。

「きみが哀しむようなことをしたりしないさ。絶対に」
「ジェームズ……」
「(おいおい、誰かロマンティックをとめろよ)」

外野は少しばかり居心地が悪かった。しかし、この二人は案外うまくいくかもしれない。リリーの前で余裕のあるジェームズはなかなかいい感じだし、普段よりも大人しいリリーも、女の子らしくて可愛いものだ。
それに、とシリウスは思う。リリーはバカじゃない。きっと薄々は”何か”に勘付いているのだろう。それを止めるでも責め立てるでもなく、警告を送ってくれているのだ。恐らくは。

「だけど、もしもリーマスや、それからナマエに何かあったらね、私……」
「うん」
「……私、あなたの頭を潰すから!」
「イェス、マム!」

前言撤回。親友の女性の趣味はアブノーマルだ。自分には理解できそうもない、とシリウスは思った。ジェームズが普通じゃないのは、今に始まったことではないけれど。


 

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