The Frog in the Well | ナノ


在を、人に気付かれずに生きることができたら。
たぶん多くの人間はそんなことを望んじゃいない。自分だって、心の底から望んだりなんてしない。やっぱり苦しいと、心のどこかで感じているのに違いないのだ。

同室の3人とリーマス・ルーピンは相変わらず、微妙な距離を保っていた。興味を失ったのか、もしかするとすでに何かが知れて黙認しているのかもしれないが、どちらにせよ、部屋の居心地はよろしくなかった。決壊させるよりは、このまま現状維持していた方がましかもしれないが。
土台、ムリがあったことなのだとリーマスは思う。ルームメイトに気づかれず満月の夜ごとにベッドを抜け出すだなんて怪しまれない方がおかしいのだから。共有する時間が長くなれば、必ずボロが出る。きっとそのうちに、もっとひどいことになるだろう。

リリー・エヴァンズから聞いた、ナマエ・ミョウジがリーマスの姿を見たらしいという話が、頭から離れない。もしも本当に見たのなら、何かしら疑問を抱いたはずだ。彼は傷だらけ血まみれのボロボロな姿で、明らかに学校とは反対の方向からのろのろ歩いてきていた。あんな夜明けに校外へ出る人間がいるとは、よもや誰も思うまい。実際、今まで誰かにはち合わせたことなどなかったのだ。
いわゆるドサクサというやつのおかげで、現在はその話には触れられずにいる。彼女はもしかすると忘れてしまったのかもしれない。そうだといい。

けれど、リーマスははいつだって誰かの口から発せられる、その言葉に怯えている。

『リーマスって何なの?』

そんなこと、僕の方が知りたい。


 

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