The Frog in the Well | ナノ


く寮に帰って、今日の宿題を済ませて、家に手紙を書くつもりでいた。だから、リーマス・ルーピンは抜け道を使った。
以前にルームメイトが話していた隠し通路で、人通りのない廊下に出るところが気に入り、こっそりと、よく利用していた。彼らの話を偶然に聞いてしまったことには気が引けたが、こういうものは発見者よりも利用者の勝ちなのだ。

「あ、リーマスも云ってやってよ!お弁当の林檎はウサギさんの形に切るの、定番よね?」

”人通りなんてほとんどない”んじゃなかったのか。

「僕の家ではウェールズ・グリーン種に切ったものだけどね。や、リーマス」

状況がよく分からない。どうしてこの場でナマエ・ミョウジとジェームズ・ポッターが和やかに歓談しているのかも謎だし、何よりそう突然に、林檎のカットの話をふられても困るというものだ(大体それってドラゴンじゃないか、ジェームズ)。後ろではシリウス・ブラックとセブルス・スネイプが、「バーカ」「おまえのほうがバカ」「死ね」「おまえこそ死ね」などという低レベルな喧嘩をしている。

「だけど林檎を剥くのが苦手だなんて、家庭的に見えてその……ギャップが実にいいよね。ギャップがなくても、リリー・エヴァンズは魅力的だけど」
「それ以外は何でも上手だよ。ただ、それだけはド下手くそだから内緒にしてるの」

惚けているリーマスを、ジェームズがちらりと見やった。

「人にはみんな、誰にも見せない側面があるものだねえ」

まただ。喉の奥がざわつきだした。シリウスの瞳は強すぎて苦手だけれど、ジェームズの瞳は、底がないような深い色をしている。苦手というよりは、ときどき恐ろしい、とリーマスは思う。
全てを知られてしまうような気がする。
実際に彼はたぶん、いや確実に、”何か”に気がついているのではないか。すべてを理解してはいないだろうが、その忌々しくも素晴らしい知性と洞察力とで、自分の正体に予想がついている気がする。恐らくシリウスも、もしかすると、ピーター・ペティグリューでさえも。

「……ああ、思い出したよシリウス!」
「何だよ。今取り込み中だ」
「マーク・トゥエインだよ、『人にはみな月と同じように誰にも見せない裏側が……』」
「ジェームズ、お前疲れてんのか?」

4. Stupid Greenhorn




 

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