marigold | ナノ



「失礼ですが、状況を説明していただけないでしょうか?」

ドアを開けたシリウスは、とても丁寧にそう尋ねた。


13.おかしなふたり


「えーと、ねんざだそうです」
「『だそうです』じゃねえだろオイ。捻挫くらいでこんな面白い光景が見られるはずないだろ、まず説明しろ最初から俺に分かるように説明をしろそしてお前はそいつを降ろせ今すぐにだ」

そっと降ろせよ!と息継ぎもせずに云い切ったシリウスは、そのままソファに深く沈み込んだ。向かい側に静かに下ろされたマリゴールドは、ぜいぜいと彼の肩が上下するのをたっぷり5秒は眺めてから、鞄をよけて隣席を空けた。件の人物はほんの少し確かめるように彼女を見、それから渋々ソファへと腰を下ろした。

「体育の時間にでもコケたか」
「いえ、昼休みにルーナと太極拳を」
「……。へえ」

ほら、とアイシングパックを当てた足先を持ち上げる。ソックスを脱いだ足首は軽く腫れて、青みがかっていた。隣でジッと押し黙っていた男が「はしたない」と咎めるように彼女の足を下ろさせたころには、もうシリウスは限界だった。透明人間ごっこは終わりだ。
ゴングが鳴った。

「じゃあなんでこの変態がおまえをおぶって帰ってくんの?学科主任ってあのオバ……失礼、女性だろ!保護者会で会ったもん!よりにもよってセブルス・スネイプか よ!違うじゃん!おまえ保健医ですらねえじゃん!通報しようかと思っちゃったよ俺!大体それ監督不行届だろ? ていうかマリゴールドおまえ太極拳とかやってたの? 聞いてねえ!楽しいか? 今日学校どうだった?」

一通りまくし立ててから、またシリウスは息を切らせ、今度は頭を抱えてしまった。

「えーと……。マクゴナガル先生が送ってくれるはずだったんだけど、先生編み物のカルチャースクールに行っちゃって。あと太極拳は楽しいし、学校はまあまあです」
「……なら電話をしろ電話を……」
「何度もしたがそちらが出なかったのだ」

ここへきて初めて口を開いたセブルス・スネイプに、シリウスはまるで親の敵を見るような目を向けた。マリゴールドはこの気まずい空間に一秒も長くいたくなかったが、生憎と彼女の右足は謹慎中だ。
どうにかなれこの空気、と部屋を見回すと、ちょうどよく玄関のドアが開いたところだった。

 

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