marigold | ナノ



「しかしアレだ」
「何だよ」
「いや何ていうかさ、ほら……ほんと寒いんだけど」
「あ」
「あ」
「おまえ10ペンスな」


11.だれもしらない


さよなら、悲しい顔をした女王さま。
彼女が陶器でできたスポンジ・ボブへ吸い込まれて消えるのを、リーマスはぼんやりと眺めた。シリウスは鳴らない電話を見つめている。マリゴールドはふたつの大きな背中にはさまれながら、5分ごとにくしゃみを繰り返していた。

「「Bless you」」
「あー、ありがと。なんか眠くなってきた」
「ダメだよマリゴールド、ここで寝たら君は死ぬ。溶けて死ぬ」
「えっ……」
「そんなんで死にません」

でも寝るな。シリウスはソファからずり落ちたブランケットを、マリゴールドの頭へ無造作にかぶせた。
三人はまるでどこかの魔法学校の生徒のように、毛布にすっぽり包まれてソファに並んでいる。さすがに野郎同士がくっついているのは景観的に問題があるので、緩衝材を間にはさんで。

「……修理屋さん、呼んだんだよね?」
「呼んだよ。月曜まで来ないすてきな電気屋さん」
「それじゃ誰からの電話を待ってるの」
「『二時間以内に来ないと殺す』っていう客の脅迫を受けて、やっぱり考え直すすてきな電気屋さん」

一抹の恐怖を感じたマリゴールドが、ぎゅっと体を寄せてくる。リーマスはソファからはみ出しそうになった自分のお尻を戻しながら、なだめるように彼女の頭を撫でた。

「どうでもいいけどさあ、タブーワード云ったら10ペンスってのやめない?」

リーマスが不服そうに貯金箱のボブを指でつつくと、中から心許ない音がした。それらのすべては今のところ彼の財布に入っていたものだ。

「もう一回電話……いや、むしろコレ直接呼びに行った方が早いか」
「おっと、ボブ見たかい。無視だよ無視」
「ラジエーターが壊れたのはわかるけど、なんで電気もつかないの?」
「それは単にこのオンボロフラットが停電だからですよーコンチクショウ!滅びろ人類!」
「僕のフラットメイトはいつからこんなに冷たくなったのか……」
「あ」
「え」

「「リーマス、10ペンス」」

 

1/4



×
- ナノ -