marigold | ナノ



それは黄金とまでは呼べないけれど、まあまあ天気のよい昼下がり。
久々の休日に浮かれ、昼間からパブで一杯ひっかけてしまった男は今、まどろみの中にいた。床に並べられた色とりどりのクッションに埋もれて、ファンタジーの国を行ったり来たりしていると、暇そうなホビットが自分を見下ろしていた。


10.きみによむものがたり


「シリウス、遊ぼうよ。マーシャルアーツごっこしよう」
「……そんなハードな遊びしたくねえ。昼寝しようぜ、昼寝」
「夜眠れなくなるじゃん」
「そのぶん夜更かしできるだろ」
「じゃあ、何か話して」

話?とうっすら目を開けると、いつのまにか隣に転がっていたマリゴールドが真剣な顔でうなずいた。窓から入る生温い光に殺されそうな気がする。

「お話を聞かなきゃ眠れない体質だから」
「ウソをつけ。おまえはベッドに入って5秒で眠りの世界に行ける子だ」
「……ならいいよ、隣でゾンビの映画見る」

ベッドで子供を寝かしつけたことなど、あるはずもない。
それでも「ロメロ!ライミ!スナイダー!」と嬉しそうにリモコンを見せつけてくる彼女に、シリウスは逆らえなかった。仕方なくストライキを起こしかけている脳味噌をぱしっと叩く。自分よりも柔らかいその髪を指にそっと絡めると、マリゴールドはもぞもぞと寄ってきた。腰のあたりが妙にくすぐったい。

* * *

昔々、といってもそれほど遠い過去の話でもありませんが、あるところに女の子がいました。元気な良い子でしたが、注意力散漫ゆえに時々おかしなことに巻き込まれ、また他人をも巻き込んでいました。平たく云えばトラブルメーカーです。
今日も今日とて彼女はウッカリ深い穴に落ち、あろうことか男の子を下じきにし、あまつさえ彼のメガネを割ってしまいました。ここがアメリカならば、完全に相手取られているところです。

「何でそこで踏むの!?マジ何も見えねえ!」
「ご、ごめんねハリー……。でもほら、イメチェンも必要だし」
「つーか何だよこのロココ調の服!僕のオアシスTシャツは?」
「アディダスのスニーカーだけは譲歩してくれてるよ」
「ワオ。ほんとだ」

男の子はメガネがないと赤子レベルの戦闘力に成り下がるほど視力が悪かったので、女の子は彼を目的地まで連れて行ってあげることにしました。

「で、どこへ行くところだったの?」
「知らないよ。急に呼ばれたんだもん。シリウス、僕どこ行くの?」

語り部に話しかけるんじゃねえよ。公爵夫人のところだよ。

「……だってさ。とりあえずあっち行く?」
「なんであっちなの」
「看板に汚い字でそう書いてある」

ちなみにスペルも間違っていました。

 

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