marigold | ナノ



Times、Daily Mirror、Guardian、Telegraph。
大手タブロイドから日曜版まで、キッチンの床はすっかり占拠されている。その上をくたびれたスリッパを履いた足が動き回り、配列を乱した。

「『ロボット・パラノイア・宇宙』から連想されるものって何だと思う?」
「あ、わかった。『C-3PO』」
「残念。6文字のマスなんだな」
「……じゃ『ストームトルーパー』」

それも6文字じゃない、とリーマスがツッコミを入れるよりも早く、大きな手が伸びてきて彼女の顔を正面に戻した。頭の持ち主が不服そうに口を挟む間もなくハサミが動く。
しゃきん、しゃきん、はらりはらりと落ちる柔らかい髪の毛が、くだらない広告文句を隠した。


8.くるっちゃいないぜ


「うーん、『ガンダム』かなあ。ジャパンのアニメは人気だし」
「G-U-N-D-A-M、あ、ほんとだ6文字」
「……お客さん、10秒でいいから静止してくれたまえよ」

失敗しても知らんぞ、と口では云うものの、彼が自分の時よりも細心の注意を払っていることをリーマスは知っている。
シリウスは意外と器用なので、リーマスの髪はもちろん自分の髪も切る(リーマスは理髪に関しては天才的にドヘタなので、ハサミにすら触らせてもらえない)。本来であれば野郎はともかく、女の子は美容院で切ってもらうべきなのだろうが、マリゴールドはさして気にしない。と云うより、彼に髪を切ってもらうのが好きなのだ。

「ここらへんは? もっと短くしたいなら切るけど」
「いいよ、任せる。シリウスの好きなほう」
「あっそ。俺はこっちの方が好き」

サイドの髪をゆるく掴んでハサミを入れてゆく。器用なもんだなあとそれを眺めながら、少し離れた椅子の上ではリーマスが古新聞のクロスワードに興じていた。彼の髪は既にきれいに整えられており、床にはマリゴールドのものに混じった鳶色が散らばっている。

「……シリウスって、そういえばさあ」
「何だよ集中してんだから話しかけんな」
「昔、そういう髪型の女の子が好きだったような気がするんだよね」

じゃきん、とハサミが鳴った。

「――ちょ、おま、アホ云うな!云ってもいいけど今はやめてくんない!頼むからさあ!」
「ねえ何なの今変なとこ切った!?切ったの!?」

色々な意味で焦っている二人を尻目にふと視線を落とすと、イルカが笑っていた。鈍い陽の光が差しこむキッチンの床の上で、その笑顔だけがどうにも真理を悟っているような気がする。
何となくThe Sunを拾い上げると、彼の求めていたものがそこにはあった。

リーマスはくるくるとペンを回し、『Marvin』とマスを埋めた。

 

1/4



×
- ナノ -