marigold | ナノ



円卓の上座についていた人物が、おもむろに口を開く。

「ここにクルックシャンクス行方不明事件作戦本部を設営し、だたいまより捜索に当たります」


7.ねこがゆくえふめい


ばしり、とテーブルを叩くと同時にハーマイオニーは立ちあがった。左手にはオレンジ色をした彼女の愛猫の写真、そして右手は宣誓の意で高々と挙手。それを横目で見ていた赤毛の少年は、前に座る友人たちへちらりと目をやる。
しかし、彼らはデザートのチュロスをココアに浸すのに忙しかった。

「こう……チュロスをびしゃびしゃにして食べるとさ、おいしいんだよ。お行儀は悪いけど」
「ドーナツでもいいよね。コーヒーに浸すのがいいって」
「お、それ素敵ね!でもドーナツのおいしいお店ってどこ?」

キッチンから遠巻きに眺めていた大人二名は、「ワア、なんかめんどくさそう」と思ったので、とりあえず黙視することにした。子供は子供で遊びなさいね、という主張である。

「おやつ談義はどうでもいい!探しに行くわよ、ほら立って!」
「あのふてぶてしそうな猫なら大丈夫だろ。津波とか来ても生きてそうだし……」

云い終わらぬうちに、どこぞの槍よりも鋭いハーマイオニーの視線にロンは突き刺された。
彼女は本気である。たぶん、やるときは、殺る。

「いいけどちょっと待って。おやつの準備しなくっちゃ」
「ねえ、ドーナツ売ってる店は通るかな?」
「……アンタたちは、もう、勝手にしろ!」

キィイー!とくせ毛をぐしゃぐしゃ掻き混ぜる彼女は、さながらストレス社会と戦うサラリーマンである。もちろん、彼らとてクルックシャンクスが心配ではないわけではない。ただ、件の猫がとても賢いということを知っていたし、何日も行方不明ならばまだしも、いなくなったのは昨日である。
見かねたリーマスは、そっと彼女に近づいてチョコレートを渡した。彼は『カカオ成分が全てを解決する』と思い込んでいるふしがある。

「まあ、確かにちょっと心配だよねえ。手伝ってあげたらシリウス」
「なんで俺?」
「子供だけじゃ大変だもの」

じゃあおまえ行けば、と口に出そうとしたが、目の前の善人マスクを貼りつけたリーマスの気迫に何も云えなくなった(ちなみに、マリゴールドとシリウスはこの笑顔を『女子供を泣かすんじゃねえオーラ』と呼んでいる)。
役割をなすりつけあう二人の大人をなだめるように、ハーマイオニーは電話を指差した。

「いいの。あなたは後方支援に任命したから」
「はい?」
「作戦本部で入電を待つステキな役割よ」
「本部って……」

俺の家なんだけど、ここ。

 

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