呼びだされてリビングに入ると、二人の男がただ静かに待っていた。重たい空気を背負ったリーマス、隣には神経質そうな顔のシリウスが立っている。
マリゴールドの肩にゆっくり手を乗せると、真摯な視線でリーマスは口を開いた。落ちついて聞くんだよ、マリゴールド。
「シリウスはね、星の王子様になったから今夜は戻って来られない」
5.おおかみたちのごご
「投げやりな嘘をつくな。誰が王子様だ、誰が」
「えーと……。じゃあ、本当は星の王子様の下僕になったんだ」
「なおさら気分悪いわ」
シリウスは、ときどき本職以外にも仕事を入れる。ほぼ彼の趣味に近いものでもあるので負担になってもいないのだろうが、今夜は相当人手が足りないらしく、リーマスが助太刀をしに行くことになった。
「気にしなくていいのに。べつに特別なことじゃないでしょ?」
それともあんたらバカにしてるのか、とやんわり微笑んでみる。小学生でもあるまいし、留守番くらいは呼吸をするのと同じである。何を不安がるのかとマリゴールドは少々心外だ。
「いや……最近は変な事件もあるしさ」
「ドラッグもやらないし、お酒も飲まないし、男の子を連れ込んだりもしないけど」
「まあ、そりゃそうだろうけどな」
「それに、何かあってもお隣さんがいるもの」
それこそ心配なのに、と二人の男は揃ってマリゴールドから目をそらした。こんな時に限ってポッター一家はリリーの実家に遊びに行っているし、知り合いや友達もあいにくと都合が悪い。週末なので仕方がないといえばそうなのだが、緊急のためにシッターを捜す時間もなかった。
「あの人たちって、別に二人が思ってるほど変じゃないのよ。でも」
「でも?」
「こないだ弟のウィリアム君がコーク吸ってるの見ちゃった」
「……。へえ」
「お兄さんはね、スマートドラッグかなんか売ってるんだって」
「「もうお隣に行っちゃダメ」」