「気配を消して背後に立つな。おまえ最近ジェームズみたいで嫌だ、すごく嫌だ!」
「やだな、彼はプロだよ? 僕なんてまだまだ」
「プロとかあんのか。なにそれ怖え……」
シチューをもぐもぐやりながら、マリゴールドは目の前でバカなやりとりをしているおっさん二人を眺めている。足はもうあまり痛まないが、冷湿布を貼った箇所がなんだかむずがゆく、テーブルの下でぶらぶらさせてしまう。
「お、何だ?」
足先がシリウスの脛に軽く当たった。もちろん、わざとではない。
「あ、ごめんなさい」
「おまえな。動かしてたら治んねえって」
セブルス・スネイプ曰く「五百歩譲ってもありえない」とのことだが、見上げた対象は完全なる保護者の顔をしてそう云った。親同然に自分の面倒を見てくれているのだから当然なのだが、最近どうにもマリゴールドは『これ』が苦手だった。いや、正確には『苦手』とは少し違うのだが、あいにくとそれ以外に言い表せる 言葉を知らない。
とにかく、シリウスが日に日に『保護者らしく』なるのが、ちょっとだけ気に食わない。
「蹴るなら全快してからじゃないと」などと恐ろしいことを真顔で云っているリーマスだって保護者には違いないが、何となく彼とシリウスは違うな、とマリゴールドは最近よく思う。
「でもびっくりしたなー。セブルスってば、全然変わらないね?」
「本当にな。あいつ永遠に俺の中で死ねランキング1位を独走中だよ」
「そして常におまえとジェームズが2位争いをしている……」と云い捨てて、シリウスは席を立った。たぶん新しいビールを取りに行ったのだろう。彼は機嫌を損ねた日は、極端によく飲むのだ。
「そっか、先生と仲悪かったんだっけ。だから機嫌悪いのね」
「まあ昔は顔合わせるたび喧嘩してたから……ていうか、早い話が妬いてるんでしょアレは」
「なんで?」
「セブルスにおんぶされた女の子なんて、きっと君が初めてだもの」
冗談っぽくそう云ったリーマスが指差したすぐ先に、細いけれど薄く筋肉のついた背中が見えた。大きな冷蔵庫の前にあるそれは、たぶんさきほど背負われたものよりも少しだけ位置が高いが、同じ大人の背中であることに変わりはない。
それでも、シリウスがくるりと体をこちらへ向けるのと同時にマリゴールドは目を逸らしてしまった。ちょっと首が痛むくらいに、思いきり。
見ていたリーマスはどちらにでもなく、「ほんと子供だなあ」と呟いて笑った。
スネちゃまが出したかっただけです。たぶん彼は子供嫌いではないので、面倒見は良いだろうと思います。
このシリーズはどんどんキモくなるなあ……