marigold | ナノ



アイロンをかけるシリウスの背後で、マリゴールドは頬杖をついたままペン先をぶらぶらさせている。何の因果か来週テート・モダンへ見学学習に行くため、エッセイの下準備をしなければならないのだ。
しかし現代アートについて何を述べるべきか、彼女の筆はなかなか進まない。先ほどからラジオのボリュームを上げたり下げたり、アイロンの蒸気に耳を澄ませたりしている。

「マリゴールド、おまえ今日の放課後は何してたの」

シリウスは仕事場から直にポッター家へ向かったため、彼女のことはリーマスが迎えに行ったのだ。

「えーとね。ジニーの家で一緒に宿題やって、それからチャーリーに手紙を書いたよ」
「チャーリー?」

チャーリーって誰だっけ、ああウィーズリー家の兄貴か……2番目の。ものすごい速度で回転したシリウスの脳裏には、赤毛の青年が浮かび上がった。さぞかし大きくなったのだろう。
ちょっぴり安心しながら、テーブルの上にある紅茶に手を伸ばした。何だかとても喉が渇く。久々だからってあんなにワイン飲むんじゃなかった、とシリウスは思った(帰りの運転をするために、ひとり素面を貫いたリーマスは正しい)。

「そりゃ何でまた」
「なんでって、別に理由はないけど。お元気ですかって」
「ふーん」
「ラブレターだと思った?」
「……。ハッ、まさか」

まさかねえ、そんな。考えもしていませんよそんなことぼくは。
器官への紅茶の侵入は断固阻止させて頂いた。死因が紅茶だなんてまぬけもいいところだ。こちらの気も知らないマリゴールドは、涼しい顔でペンをぐりぐり動かして何かを書いていた。
最近の彼女は、子供のようでときどき、とても大人びて見える。この年齢の女の子なんて学生時代に散々見てきたはずなのに、あの頃はこんな風にいちいち言動に神経をすり減らすことはなかった。……ような気がする。

「シリウス」
「なんでしょうか……」
「わたしが部屋を出る前に、開けて読んだら怒るから」

なにを?と聞き返す前に、アイロン台の上にノートの切れはしをちょこんと置いて、彼女は行ってしまった。
エッセイの準備は諦めたのか。ぼんやりと背中を見送りながら、ドアが閉じられた音と同時に開いてみる。なんだかこういうの、妙に懐かしいような。今日は昔のことを思い出す機会が多いなあ、これが年齢を感じるというやつなのだろうか。シリウスは文面に目を走らせた。


『シリウスへ。明日の帰りにプディング買ってきて。愛をこめて、マリゴールド』


一瞬呆気にとられて、それから笑ってしまった。ほろ酔いの勢いも手伝ってひとしきり声に出して笑ったあと、マリゴールドが忘れていったペンをテーブルから拾い上げる。

『マリゴールドへ。わかりました、しかと心に留めておきます』

それから最後に忘れずに一文を書き加えた。
『From S.B. with love.』
そして再びラジオから流れ始めた歌に、静かに耳を傾けた。



ウィーズリー家大好き人間ですみません、あとブラック弟も勝手に出してすみません
おっさんも大好きですが、兄弟ネタもかなり好きです

 

4/4



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