marigold | ナノ



その日は久々に、ポッター家で夕食だった。
ハリーとマリゴールドは、今はソファに寝そべってテレビを見ている。おもしろいシーンになると、片方が片方へ耳打ちし、顔をつきあわせてくすくす笑う。
その光景は、キッチンにいる大人たちをずいぶん微笑ましい気持ちにさせた。

「やっぱり娘っていいなあ……。ハリーはちっちゃい頃から、ずっと妹を欲しがっててさあ」
「そういう妄想は嫁に叶えてもらえよな」

無言の鉄槌がおりてきて、シリウスは唸った。

「いってぇ!今のなに!?何で殴ったリリー!」
「洗った後のきれいなお鍋と洗う前の汚れたフライパン、どっちかしらね?」
「どっちにしろそれ洗わないとね」

泡だらけの手をしたリーマスが手を伸ばすと、リリーはそれをどちらも渡してきた。ぼちゃん、とシンクから水滴がはねる。

「そういやシリウス、この前きみの弟くんに会ったよ。テート・モダンのカフェで」
「……いや、別にどうでもいいよ何報告だよ」
「でも声をかけたらダッシュで逃げちゃった。去り際に『爆発しろポッター!』って云われた」
「そりゃそうだろ。不審者め」

リー マスはそっとシリウスの顔をのぞき見た。なんてイヤそうな顔。親との確執の末に家出して勘当されたほどだから、彼の、自分の家系に対する感情は複雑なものなのだろう。かと云って、彼が愛情の薄い人間というわけではない。むしろその逆で、一度自分のコミュニティに引き入れると大袈裟に偏執とも呼べるほどの 情を注ぐ。まるで外に出すまいと必死につなぎとめるように。
なんていうか、この人、極端なんだよな。

「まあ、でも、確かにね。兄弟っていいよね楽しそうで」
「……うちはそんなに楽しくなかったぞ」
「あれ、どうしたんだいリーマス」

さびしいのかい?さびしくなっちゃったのかい?僕の胸にとびこんでくるかい?
聞いたくせに自分からぐりぐりとハグをしてくるジェームズに、リーマスは心底鬱陶しい、という顔を向けた。テーブルを見ると、さっきまでは半分くらい残っていたブランデーの瓶が空になっている。どれだけ紅茶に入れたんだ。
しかしシンクに腕をつっこんだままなので、押し返すこともできない。

「お兄ちゃんって呼んでごらん!ハイ!お兄ちゃん!」
「じゃあ私がお姉ちゃんじゃないの。すてきねえ」
「俺まんなかのお兄ちゃんな。やーい末っ子ー」
「……なんなの君ら。ワイン飲みすぎたの?もうやだ酔っ払い!やだ!」

せまいキッチンでひっつきあう大人たちを見つけた二人の子供は、そろって首をかしげた。

「何してるのあれ。サンドイッチプレイ?」
「きっと大人には大人の事情があるのさ。僕らはなにも見なかった」

 

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