「チャーリーに買ってきてほしいものある?」
「……やはりルーマニアといえば『ジェロヴィタール』を」
「いや、うちのママじゃないんだから」
やわらかいシーツの上は、ジニーの髪の毛と同じイチゴの匂いがする。ウィーズリー家は全員こんなリリカルなシャンプーを使っているのかしら。アーサーやモリーならばまだ微笑ましいが、赤毛ノッポの男子群がそろって風呂上がりにイチゴの匂いをさせていることを想像したマリゴールドは、苦笑した。
「ジニーはお兄さんがいっぱいいていいな。羨ましい」
ベッドに転がったままそう漏らすと、ジニーは雑誌をめくっていた手を一瞬とめて、ハハンと笑った。
「欲しかったら一人くらいあげるわよ。フレッドあたりどう?」
「わたしチャーリーがいいんだよね」
「え、ビルじゃないの?」
「ビルはちょっとかっこよすぎてねー」
突如、バシン!とドアが開いた。
「マリゴールド、さらっと傷ついたんだけど俺!」
「つーか妹よ!今おまえ鼻で笑っただろう!」
「……。ねえ、マリゴールドからも一筆書いてあげたら喜ぶと思うけど。書く?」
「あ、うん書く書く」
兄がノックもなしに部屋に入ってくることに、ジニーは慣れっこらしい。ものすごいスルースキルである。こうして末っ子は強く逞しく育ってゆくのだろうとマリゴールドは思った。
レターセットを広げながら楽しそうにしている二人を見て、兄たちは暫く「哀しいぞジネブラ……いつからそんな冷たい子に……」などと嘆いていたが、そのうち床に座り込んでぬいぐるみを弄りだした。早い話が、飽きたのだ。
「またチャーリーかよ? 用があるなら電話すりゃいいじゃん」
「手紙の方が喜ぶんだもん。手元に残るし、何度も読めるからって」
「メールのご時世に、今どきやるねえ」
ウィーズリー家の二男はどうやらロマンチストな性質らしい。ロンがいちばん懐いている兄だというから、何となくわかる気もする。
ロンの部屋の方向を見つめながら微笑ましくなっていると、ジョージがそっと紙切れを手渡してきた。折りたたまれた小さな紙に、何か文字が書いてある。
「……ジョージ、これは?」
「いいから開けてみ」
『マリゴールドへ。今晩、80年代血みどろホラー映画特集を見よう。愛をこめて、ジョージ』
マリゴールドは笑って、その下に返事を書いた。
『愛するジョージへ。今日はハリーの家でごはんです。あと血みどろ映画はリーマスに禁止されています(彼が眠れなくなるので)』
『すてきなマリゴールドへ。じゃあジョージ抜きで、ジニーと三人で行こうぜ。金曜日はどう?』
『かわいそうなフレッドへ。残念でした。金曜日は、ハーマイオニーと三人で恋愛映画を見に行く予定です』
『かわいいジニーへ。おまえはもっと兄を敬いなさい』
その後はチャーリーそっちのけで、愛のこもったお手紙合戦になった。