marigold | ナノ


「簡潔に述べよう」

水浸しの床から逃れるため、行儀は悪いがシリウスは机上に腰を下ろした。目の前にはキッチリとせまいソファに正座で収まる四人組。
この空間でまともな大人は自分だけだ、とシリウスは思っている。

「ひとつ、この家にそんな余裕はない。ただでさえ切迫してるのにこれ以上の居候は増やせない。ふたつ、家賃の三分の二を払ってる一家の大黒柱で養い主は他でもない俺。よって決定を下す権利は俺にある。……捨ててこい!」
「シリウスが実家に勘当をとり消してもらえば、猫の世話代くらいわけないと思いまーす」
「ああ、君って貴族のお坊ちゃまだものな」
「却下。埋めるぞジェームズ」

ほとんど電光石火のスピードでその妙案は打ち消された。彼はこの手の話題には絶対に触れたがらない、家系の話はタブーだ。
ジェームズはわざとらしく肩をすくめて、冷めきったオレンジペコを啜った。

「だけどお腹がすいて路頭に迷って、死んじゃうよ」
「仕方ないだろ。大体こんなぶっさいくな猫……どことなくガニ股だし、何より人の大事なシャツを下じきにしてるあたりが気に入らねえ!」
「僕らが無理なら誰にも飼ってもらえないかもね」

不思議な毛色をしてはいるものの、お世辞にもすてきな猫には見えない。おまけに薄汚れた毛並は濡れてひどい乱れよう。これならばまだモップの方が美しいかもしれない。

「お願いシリウス!飼い主が見つかるまででいいから!」

何故だかえらくその猫を気に入ったらしいマリゴールドは、てこでも折れない姿勢を決め込んでいる。恐らくあと数分したら泣き出すのだろう。そうなると今度はリーマスが怖い。
鼻をつく下水の臭いとともに、嫌な空気が部屋中を漂った。

「そう云えば、ハーマイオニーが猫飼いたいって云ってたっけな」

天の声を発したのはハリーだった。

「……それほんと?」
「うん。良ければ電話してみようか」

その言葉ですっかり解決した気になったマリゴールドは飛び跳ねんばかりに喜ぶと(実際に跳ねたのだが)、賢い友人に何度もキスをした。だてにメガネをかけているだけはある。
思春期ど真ん中の少年はその行為にに頬を染めたが、彼女は全くおかまいなし。

「リーマス!リーマス!ハーマイオニーが飼ってくれるかもって!」
「うん、そうなるといいね」
「ありがとうハリー愛してる!ついでにハリーに遺伝子を提供してくれたジェームズも!」
「いやいや頑張ったのは主にリリーなんだけど……」

ソファの上でぽんぽん飛んで喜ぶ少女と少年を眺めながら、「マリゴールド、ここへ来て何だかちょっとラフになったよね」とジェームズが呟くと、リーマスが「お隣さんの影響なんだ」と苦々しく答えた。
シリウスはようやく安堵のため息を小さく吐いて、隣でふてぶてしく鳴いた猫をざらりと一撫でした。そして隣の阿呆兄弟はいつかテムズ川に沈めよう、と心に誓った。

とりあえずは、この水浸しの床をどうにかしなければ。



なんで一緒に住んでるのかとか年齢差はどうなってるのかとか色々突っ込まれそうですが、そこはパラレルという便利な解説ですませる気でいます
あ、不細工なネコくんはいわずもがなクルックシャンクスです

 

4/4



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