marigold | ナノ



「頼んだぞ。お前の脅しに全部かかってる」

肩を叩かれてよろけつつ、リーマスは頷いた。日曜の午前中にそこまで精勤する人間が一体どれくらい存在するのかと彼は考える。いるとすればそれは単なるバカか、もしくは暖かく快適なパブが嫌いな変人のどれかに違いない。

「マリゴールド、僕が死んだときのためにチョコレートの隠し場所を書いとくよ……」
「え、そんなのあるの? どこ?」
「やめろよ縁起でもねえ。早く行け」

こうして、チーム・ザ・ソファは一時解散したのだった。

薄曇った空と停電のせいで室内はどんよりと暗い。おまけにラジエーターからは得体の知れない冷気が吹き出ていて、シリウスを心底うんざりさせた。

「……待って。停電ということは、すなわち冷蔵庫もストップ?」
「そりゃそうだ」
「アイスが溶けるう!」

毛布をひるがえして駆けてゆくマリゴールドの背を見送ってから、ラジオのチューナーを回した。この家ではつっこんだ方が負けなのだ。
ヒュルヒュルとキャッチしそこねた電波が漏れて落ちる。何となく選んだ局では、ほんの少し前に流行った明るい調子の曲が流されていた。

「おお良い音楽……食べる? コルネット」
「いらね、寒い」
「あらシリウス」
「もういいよ献金は。リーマスがいないと意味ないしな」
「そうだね。ボブがいっぱいになったらユーロスターでフランス行こうよ」
「いや、その前に新しいヒーター買うだろ」

暖房機の故障に加え、リビングに侵入するすきま風のせいで少し腰を浮かせただけでも身震いがする。他人の体温とはかくも頼もしい。顔を上げると、いつまでもソファの前に立っているマリゴールドと目があった。
黄色の毛布から顔だけ出していると、まるでタイかどこかの僧侶みたいだ。

「……どうした。座って食べなさい」
「ね、くっついてもいい?」

なんだよそれ。

「5分前まで思いっきりそうしてただろ?」
「うん。まあ、それはそうなんだけど」
「だけど何だよ」

マリゴールドは口をつぐむようにアイスをくわえて、隣に腰掛けた。

 

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