marigold | ナノ


「思い出した、ここローズ・クリケット競技場だよ。セント・ジョンズウッドの」
「ふーん。やっぱりお城じゃなかったのね」

広い芝生をぶらぶら歩いていると、ピッチの端に休憩用のテントが見えました。ひときわ目立つ赤い大きなテントが女王さまのもののようです。中を覗き込んでみると、きれいな赤毛をゆわえた女の人が椅子に座っていました。

「こんにちは。えーと、女王さま?」
「あら、マリゴールドいらっしゃい。ハリーったら、メガネをどうしたのよ」

女王さまは優雅にお茶を飲んでいました。二人もティーカップを勧められましたが、さきほどのお茶会で浴びるほど飲んでいたので断りました。子供はあまりカフェインをとりすぎてはいけないのです。

「これお父さんのでしょう。もう、何をチンタラやってるのかしら」
「リーマスとお茶してたよ。リリーは試合に出ないの?」
「もちろん出るわよ。でも私、同じくらいヤジを飛ばして観戦するのが好きなの」

騒がしいピッチに目をやると、ちょうどボウラーがウィケットに向かって走り出したところでした。きらきら光るクリケットバットを手にしたバッツマンが、長い白ヒゲをゆらゆら揺らして超人のような威力でボールをぶっ飛ばしています。

「あれうちの校長じゃん。何してんだこんなところで……神出鬼没な人だなあ……」
「ダンブルドア先生のボール、どこいった?」

テントを揺らすようなどよめきが起こり、何ごとかと二人が見回すと、ピッチの視線がこちらに集中していました。

「あら、どうしたのかしら」
「……赤い雨が降ってきたけど」
「雨じゃないよ、シンナーくさい。これペンキだよ」

そして、二人ははっとしました。
四方八方から、興奮しすぎた観客が席を乗りこえて走り出しました。押し寄せる群衆は自分こそが落ちたボールを拾おうと、目の前のテントには気がついていません。怒鳴ったりわめいたり、ちょっと眉をひそめてしまいそうなくらい汚い言葉を吐きながら、猛ダッシュでこちらへ向かってきます。そんなもん外にいくらでも転がってるから5ペンス払って拾って来いよと二人は思いましたが、隣にいたはずの女王さまももちろん、我こそがキャッチしてやるとクリケットバットを片手に立ち上がっています。いつになく生き生きした彼女は、もうナウシカでも止められそうにありません。会場が血の海となることは避けられないようです。
ああもうだめだ、と女の子はぎゅっと目をつむりました。


「Hooooooooolly
Shit!!


ちょっと、なに仲よく寝てんの君たち!信じらんないよ!」

ヒステリックな声でたたき起こされた二人は、飛び上がるなり揃ってきょろきょろ辺りを見回した。そこにあるのは薄暗い部屋と、薄暗い色のクッションと、薄暗いけれどきちんと身支度を終えているリーマス・ルーピンだけだった。

「先に行ってるはずなのに完璧遅刻だよコレ。去年のクリスマスも遅刻したのに!」
「……遅れたら、女王さまに殺される?」
「は? まあ、リリーのディナーは食いっぱぐれるかもだけど」

云いながらもリーマスがぽいぽい投げてくるコートや手袋を、二人は慌ててキャッチした。ぼんやりと空腹を覚えつつ、まず自分たちに必要なのはヘアブラシであるとシリウスもマリゴールドも互いを見て思った。ちょっと絶望的なくらいにひどい頭をしていたのだ。今夜は仮装は必要ないのに。

「クリケット大会はどうなったの……」
「そりゃ女王の一人勝ちだろ。あそこの嫁は世界最強だぞ」
「二人とも寝ぼけてんの? それとも、去年のクリスマスにリリーがジェームズをクリケットバットで殴った話?」

マフラーでぐるぐる巻きにされていたマリゴールドが返事の代わりに「痛い!」と悲鳴を上げた。リーマスが絡んだ髪をほどこうとするが、焦っているのと、彼が底なしに不器用なのでなかなかうまくいかない。
もう窓の外からはノエルが聴こえている。
シリウスはちょっと笑って、車のキーを探しに行った。



クリスマス回だったので、増量と捏造に捏造を重ねたパロディでした!
今度はオズあたりをやりたいです(止すんだ!)

 

5/5



×
- ナノ -