marigold | ナノ


お腹もすっかり満たされて眠くなってきたところで、女の子はクリケット大会のことを思い出しました。

「本気で忘れてた。お城どこよ?」
「ちょっと遠いけど心配御無用さ!シリウスに送らせるから」
「おい、ストーリーテラーを出演させんな。誰が物語進行すんだバカ」
「でも僕バイクは嫌なんだよなー、口に虫が入ってくるんだもん」
「心配しなくともお前とタンデムなんて絶対しねえから」

赤毛少年と公爵夫人と三月うさぎの三人は眠気に完全敗北し、なかよくテーブルに突っ伏していました。何も知らずにお茶会に来た人がいたら、何らかの事件だと疑うような光景です。ほんとうは女の子も眠くてたまりませんでしたが、そうなるとお話が破綻してしまいます。まったくもう、今回だけですからね。はやく後ろ乗れ。そこの寝ぼけオヤジは来なくていい。

「……ならばハリーよ、父さんのメガネをお前に託そう。スカウター機能もついてるよ」
「なにその無駄な機能!でもありがとう!」

帽子屋にメガネを託された(現)メガネ少年と一緒に、女の子は小さな車に詰めこまれてお城へと向かいました。道中はめんどくさいので割愛します。

「いや、お城っていうか……なんか宇宙船みたいのが見えてきたけど?」
「ほんとね。ウィンザー城みたいなの期待してたのにね」

そういうときは、ここがお城だ、お城以外にはありえないんだと強く思えばいいのです。二人は大きな門をくぐって前庭に出ました。庭では大きな体の庭師がビニールシートを広げ、白いボールにペンキを塗りたくっているところでした。かわいらしい赤い玉がどんどん量産されて行きます。

「すごいねハグリッド。工場長と呼びたいくらいだわ」
「ヒマならお前さんたちも塗るの手伝ってくれんかなあ……。ちなみに一個で5ペンスだ」
「それせめて日当でもらいなよ!女王さまに投書したら?」

どうやら発注ミスで、赤いボールを頼んだつもりが白いボールが届いてしまったようです。女王さまは赤い色とクリケットがカエルの卵よりも大好きなので、そんなことがバレたら庭師はクビになってしまうのだそうです。

「このご時世で無職はつらいねえ。いやあ、残念だ」

高らかに響いたイヤミな声にふりむくと、そこには金髪の少年が立っていました。彼はパッと見ただけで「ああこいつはアニメで云えばジャイアン的なポジションなんだな」とすぐにわかるような意地悪オーラを発していました。とりまきの人間も含め、おそろいで緑色のユニフォームを着ています。どうやら選手のようです。

「……ああマルフォイか。若干めんどい」
「めんどいとは何だポッター!恐れを成して逃げる気か?」
「フン、戦闘力たったの5か。ゴミめ」
「ねえドラ子、女王さまがどこにいるか知らない?」
「ドラ子って云うな!猫型ロボットの妹みたいじゃないか!!」

癇癪をおこしている少年をスルーして、二人は競技場の方へ女王さまを探しに行くことにしました。庭師を助けてあげようと思ったのと、単純にクリケットが見たかったのです。

 

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