marigold | ナノ


「そういえば、女王さまから手紙が来てたのよね」

公爵夫人が取り出した手紙は、招待状でした。赤いインクで『ルール無用★残虐クリケット大会へのお誘い』と書いてあります。

「微妙ににじんでるのが怖い……。普通に生きて帰れそうもないな」
「ところでさあ、木の影からずっとこっち見てる人がいるんだけど」

メガネ(なし)の男の子が示した先には、どう頑張っても猫には見えない猫がいました。明らかにただの不健康気味の青年ですが、彼のTシャツには歪んだ字で『ちえしやねこ』と書いてあります。自分でシルクスクリーンで刷ったのでしょうか。

「おや。トムだ」
「トムじゃない、チェシャ猫だよ。また道に迷ってるの?」

チェシャ猫は幸の薄そうな笑顔を見せました。

「GPS機能のある携帯電話を買うといいよ」
「(また俗っぽい単語を……)ねえ、トムもクリケット大会へ行く?」
「チェシャ猫だよ。僕は行かない。スポーツよりもフーリガンが死ぬほど嫌いだから」

本当に死にそうな顔色だなあ、と一同は思いました。話をしている途中で、どこからか紅茶のいいにおいが辺りを漂っているのに気がつきました。全員が赤毛少年のビール臭にすっかり飽きていたところだったので、ふんふんと鼻を動かして匂いの方向を探しました。

「あっちでお茶会してたよ。スポーツよりは遥かに有意義だね」

チェシャ猫が云うが速いか、4人はダッシュで匂いの方へ突き進みました。たしかに、向こうに見えている庭で誰かが優雅にティーパーティーを楽しんでいるようです。甘いワッフルの匂いも空きっ腹に響きます。まとなりのない4人の団結力にもビックリですが、メガネがないと大変なことになる少年が先頭をきって突入して行ったことに、女の子はとても驚きました。

「あらハリー。メガネなしでもいけるんじゃない?」
「違うの、なんかあのお兄さんに近づくとデコが痛くて……」
「新種の病気?」

ともあれ、お茶会です。

「やあ君たちいらっしゃい。座ってて、今チョコ出すから」
「リーマス、きみいいかげん糖尿病になるぞ」

テーブルについて仲良くお茶をしていたのは、三月うさぎと帽子屋でした。どちらもこんな昼間に庭でお茶をしているだなんて、ニート並に暇なおっさん共です。すでにテーブルにはお菓子がたくさん乗っていましたが、三月うさぎは近所のオバちゃんよろしく嬉しそうにお菓子を追加してきました。

「ジェームズ、ワッフル食べていい?」
「いいよ、何でもどれだけでも食べるがいいよ。よく食べて強く大きくなりたまえ」
「父さん……なにやってんの?」
「友情出演というやつだよ、息子よ。ギャラ代わりに紅茶はフリーだよ」

帽子屋はぐっと親指を立てると、38杯目のお茶を飲みほしました。つーかそれは飲みすぎだろ。カフェイン中毒じゃねえのかお前。

 

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