marigold | ナノ


しばらく歩くと、人だかりに出くわしました。遠目からは分かりませんでしたが、近づいてみると全員、見事なまでに着ているものがビショビショの濡れ鼠です。しかも彼らの全身からは、ギネスの匂いがぷんぷんしました。俺も飲みてえ。

「ちょっとシリウス、願望漏れてるよ!聞こえてる!」
「何してるの?」

女の子が話しかけると、人の良さそうな赤毛の男の子が教えてくれました。彼は唯一この場でシラフのようです。どうやら贔屓のフットボールチームが敗北した哀しみを、若者なりに表現していたようですが、そのうち彼の兄たちが悪ノリして道ゆく人にビールをぶっかけ、道ゆく人もバカなのか優しいのかそれに便乗しての騒ぎでした。要するに弟は、とばっちりです。

「完全にフーリガンじゃないの」
「とりあえず服を乾かさなきゃママに殺される……!ね、ドライヤー持ってない?」
「ようクラブ行こうぜクラブ、女の子と踊りてえ」
「つーかもうコレ脱げば関係なくね?」
「マンUのルーニーにシティ色のギター送りつけようぜー」

何だか物騒な空気になってきました。

「ロン、わたしたち公爵夫人の家に行くんだけど。こっちで合ってる?」
「案内するから僕も行っていい? この場にいたらパクられそうだし……」
「いいけどきみ、超ビールくさいな」

三人はてくてく歩いて、公爵夫人の家につきました。そのころには赤毛少年の服も乾いていましたが、やはりアルコール臭は消えませんでした。しかし他の二人はもう彼を「そういうもの」として認識していたので、ちっとも気になりませんでした。

「嬉しいけど不名誉だ……。ところで公爵夫人って誰?」
「シリウスに聞こうか」
「だめよ、語り部に話しかけちゃ。ごめんくださいなー」

叩いた扉が開いた瞬間、三人は怒鳴られました。

「遅いッ!!!」

そこにはオレンジ色の猫を抱いた公爵夫人が、まるで御仁王様のように立っていました。怒っているのか天然なのか、髪の毛も逆立っているように見えます。奥のキッチンでは黒い服を着た怪し気な後ろ姿が、これまた怪し気な匂いを発する鍋を掻き回しているのが見えました。

「ハ、ハーマイオニーごめんね……!!」
「ごめんですんだらポリスオフィサーは要らないわよ!あんなのと二人きりにするなんて!」
「あんなのって?」

ちらりと覗き込むと、彼女の後ろで料理らしきことをしている人物の横顔が見えました。

「「「……うわあ、スネイプ(先生)……」」」
「さっきからブツブツとシリウスの名前を呼んでは、異臭のする怪しい物質を作ってるわ」
「あれはダメだよ。悪魔とかそういうの召喚しないと勝てない勝てない」

こうして公爵夫人もパーティに加わり、女の子たちは家を出ました。スネイプはこのあと突然現れたゾンビに襲われればいいのに、と思います。

 

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