marigold | ナノ


「そんなにぴりぴりするなよシリウス!ハゲても知らないぜ?」
「お前はもう二度と家に来んな」

肩に乗せられたジェームズの手を乱暴に払いのける。シリウスは汚濁水を噴出し続ける穴をどうにかふさごうと奮闘していたが、やがて諦めた。こんなものは、不毛だ。力なくソファの上を見遣ると、全員が元凶であるオレンジ色の毛玉を楽しそうにいじくりまわしていた。誰一人として彼に手を貸す者はいない。

「つまりリーマス、おまえまた懲りずに猫を拾いそいつが床板を引っ掻いた挙げ句、なぜか水道管をぶっ壊したと云うのに二人仲良くクイズ番組を肴にアフタヌーンティーを楽しんでいたわけで……いや、まあそれはいいよその部分に関してはもう百歩くらいは譲歩するよしかしよりによって俺のシャツで!何十枚もあるシャツの中で!よりによってこのシャツで、応急処置を、した、と……」

そして処置がまるで無駄なことに気づいた二人は、ソファでクイズ番組を見ることにしたのだった。

「いやあ、本当に残念ですね。我々も大変心を痛めております」
「しかしあなたの肺活量は素晴らしい」
「……おだてても駄目だ、飼わないぞ」

全員の目が中心の毛の塊に向けられた。野良のわりには恰幅がいい猫は、我関せずといった顔であくびをしている。

「ええっ、やだやだ!シリウス鬼畜!」
「脳みそ!」
「タオル!」
「ハゲ!」
「そこ、どさくさに紛れるんじゃない!俺は微塵もハゲてないしこれからハゲるつもりもない!」

それにこのシャツどうしてくれるんだ!ダフ屋から買ったとは云えレアものだったのにこのアホ!と喚き散らして暴れたせいで、部屋中はさらにひどい有様になった。
リーマスはすぐに生き物を拾う。
そしてマリゴールドはそれを飼いたがる。
たしかに可哀相ではあるし、シリウスとてできるものならば飼ってやりたいと思ったことも何度かある。しかし一度許せば、すべてを受け入れなければならない。それは無理な話だ。
いつだったかパブの外のゴミ捨て場で、飲んだくれのオッサンを拾って来たこともあるのだ。


ものには限度と云う言葉を、 この二人は知らない。
 

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