marigold | ナノ



いつの間にか、音楽は静かなものに変わった。
ゆるゆると踊っている連中を避けて歩いていると、隅のちっちゃなチェスタフィールドソファに腰掛けているマリゴールドを見つけた。背伸びをして履いたらしいヒールの高い靴を、ぶらぶらさせている。

「よお。なに食べてんの、おまえ」
「ターキッシュディライトチョコ。食べる?」

いらない、と首を振るのと同時にチョコをつっこまれた。人の話を聞かない娘である。仕方なく咀嚼してみるが、変に甘ったるいだけで疲れる味がした。酒が欲しい。

「マリゴールド」
「なあに」
「……マリゴールドだよなあ」
「シリウスどうしたの。酔ってるの?」

くすくす笑いながら、炭酸水のグラスを渡された。つめたい感触が掌の熱を奪ってゆく。隣のマリゴールドも少し興奮しているせいか、はたまた照明の具合のせいか、頬がうっすら紅潮していた。
何だか今、どうしてもそうしなければならないような気がして、シリウスは手を伸ばして彼女の頬をそっと撫でた。
マリゴールドは少しくすぐったそうな顔をしたが、拒絶はしなかった。(最近どうもリーマスいわく『そういう時期』らしく、ちょっと頭を撫でようものなら「ちっちゃい子じゃないんだからやめて」等とクールに云われて内心傷ついていたのに)
子供も大人になるんだなあ、と、触れた髪からはかすかに花の匂いがした。

「わたしこの曲知ってる」
「あー、懐かしいなコレ」
「そういえばシリウス、前にこのバンドのシャツだめにしたよね」
「……癒えてきた傷ほじくり返すのやめてくれます?」

子供なんて結局そんなものなのだ。泣きたくなってきちゃった。
泣きたくなったついでに、「ぜんぶ見てました」という顔でドアの後ろから現れたリーマスに気づいて死にたくなった。苺のないチョコレートケーキを片手に、ぐっと親指を立てている。殴りたい。

「甘い空気ブチ壊して悪いんだけどさ、どこかで花火あげてるみたいだよ」
「うるせーよお前は……。もぐもぐしやがって」
「花火? いくいく!外に出ようシリウス!」

ひょい、とマリゴールドは靴を放ったまま、裸足で駆け出した。たしかに遠くでヒュルヒュルと花火の音が聞こえる。いつもならば行儀が悪いとたしなめるところだが、今夜はパーティである。小さく息を吐いてから、シリウスは窮屈な革靴をソファの下に投げだした。
ベランダをまたいで庭に降り立つと、すでに到着していた面々が花火の下で歓声を上げている。

「わあシリウスずるいぞ!僕も靴をぬぐ!」
「勝手にぬげばいいだろ」

雨がやんで濡れた芝生を踏みながら、決して広くはない庭をぺたぺた走っていくマリゴールドを追う。
ランタンの下がった大きな木のあたりで彼女は立ち止まり、くるりと振りかえって笑った。

そしてお姫様のように、スカートの裾をつまんで御辞儀をしてみせる。



ジェー主催の仮装パーティの巻でした

 

4/4



×
- ナノ -