marigold | ナノ



「あれー、シリウス仮装してないじゃんか」
「パーティの主旨はいずこに?兄弟!」
「……俺、ちゃんと主旨にのっとってますけど。兄弟」
「「ふつうのスーツじゃん」」
「こら、なんでお前たちはモッズがわかんないの!」

せまいキッチンにて、シリウスが見つけたのは大量の汚れた皿と、少々アルコールの気配が漂う野郎どもであった。ここは『社交よりもまず胃袋』グループらしい。
若いうちから飲んだくれになっては困るので、とりあえず双子は一発ずつデコピンの刑に処す。

「大体そっちこそ、ロックスターじゃなくて殺人鬼じゃねえの?」
「毎年やってりゃ双子ネタも尽きるって」
「マリゴールドとリーマスだって反則技使ってるしな」

大変迷惑なことに、ジェームズが主催する宴は毎年思いだしたように突然開催され、なぜか毎回仮装パーティと決まっている(「だってその方が面白いじゃないか!」)。決められたテーマに沿った服装がドレスコードとなるのだ。
ちなみに今回のテーマは、かれこれ3回目であったりする。

「反則じゃないよ。彼女ちゃんとジェイ・ケイの帽子かぶってるし、僕のはレニだもん」
「……リーマス、おまえアレだろ。めんどくさかっただけだろ」
「次回はマリゴールドと二人でシドとナンシーやりなよ。僕はベースの役やる」
「意味がわかんねえ」

とりあえず酒を調達しようとフロアに向かう。といってもリビングなのだが、目の前をプレスリーが駆けたかと思えば、背の低いモリッシーがグラスを突きあげているような……よくもまあ、これだけの人数が家に入れたものだというくらいに混沌とした世界が広がっていた。

「あ、シリウスだ。マリゴールドは一緒じゃないの?」
「おまえと一緒かと思ってたけど」
「ふーん。お酒ならあっちのテーブルだよ」

近づいてきたハリーが音楽に負けじと「いいスーツだね!」と声を張り上げた。彼は彼でやけにパンクな格好をしているが、実によくできた子である。父親の顔は別に見たくない。
しかし何だ、今夜は釈然としない挨拶をされるような。

「調子はどうよ。楽しんでるか?」
「うん。でも僕の誕生日にはクラブ借り切ってよね。モリーおばさんには内緒でね」
「へいへい」

テーブルの向こうでは、ロンとハーマイオニーが云い争っているのが見える。どうやらまた今年も仮装がかぶったようだ。シリウスが一人でくつくつ笑っていると、ソファの向こうが騒がしくなった。
裾の長いユニオンジャックジャケットを着た男がアンプを持ち上げ、周囲から意味不明の喝采を浴びていた。よせばいいのにDJがボリュームをぐっと上げる。
『水兵たちがダンスホールで喧嘩してる、見ろよ!野蛮人が来るぜ!』
次に彼が何をするのかは想像がついた。拳をつきあげる観衆。なぜか異常に盛り上がるフロア。情熱的に踊りだすバカ。そして。

ハローマンチェスター!

彼はそう叫んだかと思うと、そのままアンプを雨のふりしきる窓の外へ投げた。

「ハハ、すげえなあのボウイ男。一生関わりたくないけど」
「……父さんだよ」

 

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