marigold | ナノ



本日の夕飯は『作るのめんどくさい』という正当な理由から、久々にデリバリーで済ませることになった。

「わたし中華がいいな。中華食べたい」
「ああ中華ね、いいねそれ」
「んじゃ俺が電話するから、おまえメニュー持っといで」

うん、と返事をしたマリゴールドをシリウスは眺めていた。切ったばかりの髪の毛先が揺れる感じは、たしかに見覚えがあるような気がする。しかし、学生時代にも同じ髪型の女の子が実際にいたのかどうか思い出せないし、いたとしても彼女の名前すら覚えていない。
ぼんやりしていると、ばさばさばさ、と大きな音がした。

「鳥?」

室内に迷いこんだのかと思えば、マリゴールドの頭上へ大量の紙束が降り注いでいた。リーマスが一向に片付けようとしない手紙やら書類やらを、まとめてその戸棚へ押し込んだことを忘れていたのだ。
相当驚いたのか、マリゴールドは黙ってそれらにつぶされている。

「ごめん、それ俺が前に入れた。大丈夫だったか?」
「……死ぬかと思った……」
「うわ、ちょっと。何散らかしてんのシリウス」
「云っとくけど全部お前のだぞ」

かき集めながら指摘したそばから、リーマスは書類を戸棚に戻していた。整理する気はまったくないらしい。
今度勝手にファイリングしてやる、アルファベット順にきっちり、とシリウスは心に誓った。

「おまえさ、ちゃんと物は整頓できる男と結婚しろよな。苦労するから」

発掘したメニューを手に取りながら、マリゴールドの背中に声をかけてみる。うまく閉まらない扉をリーマスと一緒にぐいぐい押していた彼女は、きょとんとして動きを止めた。

「ああ、マリゴールドって実は面食いらしいもんね」
「え!それ誰が云ってたの!」

焦ったような問いに対して、はははと笑って誤摩化している。えてして大人はずるい。

「まあ、シリウスと結婚すれば苦労しないんじゃない?」
「「えっ」」

思わずハモってしまった。
こいつ、とうとう本格的にボケ始めたか……と伺ったリーマスの表情は、真剣ともジョークともとれる何とも云えないものである。こういうことを、にこにこと悪びれもせずに云ってのけるから大人は信用されないのだ。
マリゴールドの横顔をちらりと見ると、彼女にしては珍しく反応に困っていた。そんなの真に受けなくてもいいのに、と思いながらも、その飛躍しすぎた言葉に少々照れた。
空腹のせいか、頬が緩む。

「ところで夕飯なににする? 胡麻団子食べたいんだけど」
「あ、わたし杏仁豆腐」

それは夕飯ではなく、デザートです。



うちのシリウスは器用でおバカです。
年頃の女の子の青春って難しいよなあ……。

 

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