「ハイ、もしもし」
『おいマリゴールド。チケット買わないか?』
「え、その声はジョージ……フレッド?」
『ジョージで正解』
曇天に似合わない陽気エネルギーに、一瞬マリゴールドは受話器を遠ざけた。彼の声の後ろからも何やらにぎやかな音が聞こえる。ウィーズリー家のテンションがいつも高い理由は何だろうとマリゴールドは思った。食べるものが違うのだろうか。
手短に事情を聞くところ、彼はデート代がピンチなのでチケットを譲りたいらしい。
『ベニューはうちの駅近くだし、知り合いいるから並ばなくてもいい場所で見れるよ』
「でも遅い時間でしょ?」
『年齢制限ないから平気だろ。2枚あるしさ、シリウスとでも行けば問題ないじゃん』
シリウス、と、でも。
「……あー、そうね。考えとく」
『何だよ、また喧嘩してるわけ?』
「違うわよ」
そんなにいつも喧嘩してないのに、とマリゴールドは苦笑した。云い争いになることはあっても、大抵はリーマスがうまく収めてしまうので喧嘩にまで発展しない。それに、何だかんだ云ってもシリウスは大人だ。だから、騒ぎ立てているのはいつも自分だけだという気がするのだ。
耳にかけたつもりの髪の毛が届かずに、するり、と頬に落ちる。
「違うけどさ、なんか」
ちょっとムカムカしてきた。
「おっと、悪いけど子連れ狼が始まってしまうからもう切るよー」
『は? おい待っ……』
「明日そっちの学校まで行くからね、ではさらば!」
『Lone Walf?』
強制終了し、受話器を戻した。息を吐いて、目を閉じる。
マリゴールドの内側は、何だか最近妙な具合だ。自分にはカルシウムが足りていないのではないだろうか、と彼女は思う。だから背もうまく伸びないし、どうにも気持ちが落ち着かないのかも。
チケットの件はあとで考えようとキッチンへ足を戻すと、いやにしんみりした表情のリーマスがいた。
「あ、おかえり。電話は?」
「……ジョージからだった」
「ふーん。おまえも紅茶飲む?」
何故か水道で両手をびしゃびしゃにしながら、シリウスが振り返った。見上げると首が痛い。
「ホットミルクにしとく」