marigold | ナノ


悪い勘ほどよく当たる。
朝から妙な気はしていたが、開けた瞬間に背後でメガネの親子が両手を合わせているのが視界に入った。『御愁傷さま』のサイン。
連れてきておいてなんだが、その連携プレイ、神経に障る。

「今日はなんだ……タイタニックごっこか」

居候たちは仲良く振り返った。

「やあ、君たちも飲む?オレンジペコ」
「おかえりシリウス、そしていらっしゃいハリー。立ってるついでにチョコレート取って」

傍らで「ハリー見たかい、父さんマリゴールドに存在まるまるスルーされた!」とはしゃぐ声が遠のく。紅茶と下水の臭いが奏でる絶妙なハーモニーは、更に彼の意識を遠くへ飛ばすのを手伝った。テレビから流れるクイズ番組のドラム音。『正解はTalking HeadsのTrue Stories……』ああ、今なら理解できる気がするフーリガンの気持ち。
ふと、足を包んでいた革靴からじわじわと迫る冷たさに我に返った。

「あ、危ねえ……。頭がぴーひゃららになるところだった」

かなり際どい地点で折り返してきたシリウスは、哀れな靴の未来を諦めることにした。リビングに踏み込むと、そこはさながら小振りの湖と化していた。
水面に響く足音がテレビの音声をかき消したため、マリゴールドとハリーが喚いている。いつの間にか自分以外の四人は狭いソファに仲良く体育座りしていた。
いつ用意したのかは知らないが、全員がめいめい紅茶を片手に。

「おまえら……」

次に視界に飛び込んだのは、彼が特別に気に入っていたシャツ(だったはずのもの)と、その上にふてぶてしくも丸まったオレンジ色の毛玉。
シリウスの怒りは、そこで頂点に達した。

「Come oooooooon, Fu*k'n bust**ds!」


ちなみに彼は、仲間はずれがズッキーニよりも嫌いである。

 

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