marigold | ナノ



そういうわけで、四人+失業中(推定)の青年は指輪を捨てる旅に出ることになった。

出てたまるか!だから、猫を、探すんだってば!」
「……あ、そうでした。あとドーナツ屋さんも探すんでした」
「それはきみとハリーだけだろ」

ロンの冷たいツッコミを流し、本来の目的であったクルックシャンクス捜索を再開する。ハーマイオニーとハリーは住宅の庭を見回り、背の高いロンは屋根の上を見上げながら歩いた。マリゴールドはヒマで仕方ないらしいスタンと通りを行ったり来たりしながら、指輪を葬る方法について考えていた。

「なあマリゴールド、いいからコレちょっと持ってみ。あわよくば嵌めてみ?」
「呪われそうだから遠慮します」

捨てても捨てても戻ってくるというので(怖すぎる)、ニュージーランドでも行けばいいのにと思っていると、閑静な通りをすてきなエンジン音が駆け抜けた。小型犬と優雅な散歩にいそしんでいた老婦人が、ほんの少し眉をひそめてそちらへ目をやる。マリゴールドとスタンも同じように、音の発信源へ首を向けた。
――どこからか、聞こえるはずのないゴッド・ファーザーのテーマが聴こえる。
歩道に無断でバイクを駐車し、メットを取るとゆっくりこちらへ歩いてくるその姿は、マリゴールドにはあまりにも見覚えがありすぎた。

「……どうしたの。ミスター後方支援」
「どうしたのじゃありません」

ちょっとこっち来い、とどす黒いオーラを全開にして手を招くシリウスが、そこにいた。

「……家出はするわ知らん男と出かけるわ今度は別の奴か……お前はなんだ、反抗期なのか?」
「ね、ねこさがし」
「嘘おっしゃい!男に指輪を贈ってもらおうなんざ5年は早いんだよ!この不良娘が!」
「いんや、俺そんなことしねえよ」
「だまれ小僧」

ぐりぐりと間に割り入りながら、シリウスは犯罪者と紙一重のオーラを放出していた。マリゴールドは何となくシリウスの云わんとしていることが理解できたが、まったくの勘違いである。しかし誤解をとくための隙は一ミリたりとも彼には、ない。そもそも何をしに来たのか、わからない。
「もうだめだこのおっさんは」と少女は思い、「なんなんだこのおっさんは」と青年は思った。
とりあえず、通りの向こうで一部始終を見てしまったハリーへHELP信号を送ってみることにする。

『(なんかシリウスがこわい。たすけてハリー)』
『(ぼくにどうしろっていうんだ)』
『(めがねかけてるんだからなんとかして)』
『(めがねはかんけいない)』

とりあえずシリウスが大人のフルパワーの恐ろしさを見せつける前に、何とかしろ、と。
こちらの必死なテレパシーが通じたのか、ハリーはさんざん迷った末に力強くうなずくと、「エクスペクトパトローナァアム!」と叫んで駆けて行った。

真っ赤な公衆電話へと向かって。

 

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