とりあえず四人はグレンジャー家の方角へ向かうことにした。自宅から失踪したというのだから、単純に近辺を捜索するのが一番効率がいいという判断である。
というか、ハーマイオニーをのぞく三人ははやくもダレ始めていた。
「案外トイレとかにいるんじゃないの? モップと間違えて使用中とか」
「ロン、お黙り!」
ハリーとマリゴールドはそんな二人の黒い会話を静かに聞きながら、さりげなくドーナツ店を探していた。菓子類が売られているショーウィンドウを眺めては、痴話喧嘩に耳を傾け、ついでにその辺に猫がいないかどうか確かめる。
そんなことをくりかえしていたら、前方からぺたぺたとスニーカーを引き摺る音が聞こえた。
「あれ、スタン?」
マリゴールドが声をかけると、よれたシャツを着た青年は煙草をくわえたままでちょっと顔を上げた。
「あ?」
「やっぱりそうだ。運転の仕事は今日はお休みなの?」
「あー何だ……。その、まあ」
そんなとこだな、とやけに強い訛りで答えると、スタンは首の裏をぼりぼり掻いた。隣のハリーが「誰?」という視線を送ってくるが、マリゴールドはちょっと眉を上げて笑っておく。またクビになったのかもしれない。
「ヒマならパブでも行くかよ?」
「ううん。猫を探してるところだから無理」
「ふーん……なあ、だったらついでにこれ捨ててきてくんねえ? そこいらの火山か焼却炉に投げ込んどきゃいいから」
「え、なにコレ」
指輪だった。
「やだ、そのうちロンが『愛しいしと……』とか云いだしてルール無用の残虐ファイトに……」
「ならないよ!マリゴールドってバカなの? 大体、火山ってなんの話だよ!」
どこのホビットだよォオ!!とロンが騒ぎ始めたので、ハリーはウィンドウを見るふりをして距離を置いた。どうしてこのパーティは、こうも血圧が上昇しやすいのか。まだ花の十代だというのに。
「この指輪はよ、マジで呪われてんだぜ。持ってからギターパクられたり、ゾンビに襲われたり、ロクなことねんだ」
「へえー。ますますトールキン風味」
「(今さらっと怖いこと云わなかったかこの人)」
ますます距離をとったハリーは、ふとハーマイオニーの姿が見えないことに気がついた。きょろきょろと見回してみると、彼女は民家の庭に置かれたジョウロに真顔で手をつっこんでいた。
ハリーは思った。普通いないだろ、そこには。