marigold | ナノ



「まあそう怒るなよ。きみに信用がないわけじゃないって」
「ジェームズだってハリーに同じことするさ」

それはどうかなと思いながら、マリゴールドはアップルパイを口に突っ込んだ。
林檎の味付けが甘酸っぱくて、とてもおいしい。モリーおばさんはこの家の食生活を心配しているらしく、ときどき料理を作って子供たちに持たせてくれる。家が遠いのであまり遊びには行けていないけれど。
考えてみれば、この家は、自分は、色々な人に心配されている気がする。

「それよりさあ、ローディーやってるってホント?」

はやくも『子守り』に飽きたらしいジョージが雑誌を眺めている横で、パチパチとリモコンを押していたフレッドが振り返った。

「え、なあに」
「隣に住んでる連中だよ」
「最高にラッドだって噂の」

ああ、とマリゴールドが頷くと、双子の目がぱっときらめいた。

「うん、そう。お兄さんがね」
「「すげえ!」」

その表情で、何となく、この二人が『子守り』を請け負った本当の理由が薄々わかってしまった。
反対側に座っていた双子は、こちらのソファへうやうやしく移動し、マリゴールドを挟んで座りこんだ。暑苦しい。

「マリゴールド、きみってキュートだよな」
「髪型が最高」
「その服もよく似合うよ」
「佇まいもホント魅力的」
「……だめだよ。遊びに行ったら、わたしが怒られちゃう。禁止されたばっかりだし」

「Oh, come on!」と大げさに双子は崩れ落ちた。

「シリウスに怒られるなんていつもだろ?」
「今夜帰らないなら平気だって!俺たちも夜遅くなったら消えるしさ」
「……あなたたちは知らないでしょうけど、リーマスが怒ると、いい歳した大人でも泣くのよ」

リーマスは忍耐強い。しかしその糸が切れると絶対に容赦はしない。的確に核心を突く一言を、彼は知っているのだ。

「一目見たらもう十分だから」
「そうそう、ついでに一言二言三言かわして」
「どこのサポーターか聞いて」
「どんな音楽聴くか聞いて」
「ついでに将来売れたときのためにサインもらって」
「そしたら満足して帰るから、俺たち」

右から左からまくしたてられてグッタリしながら、マリゴールドは思った。シリウス、人選間違ってる、と。

 

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